【コラム】中小企業の事業承継と遺留分に関する民法の特例

2015-11-19

1 中小企業の円滑な事業承継は喫緊の課題である

東京商工リサーチの2014年の調査(http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20141002_01.html)によれば、現在、企業の代表者の平均年齢は60.6歳であると言われており、中小企業経営者の高齢化は深刻な状況となっています。これは、現経営者による後継者への事業の承継がスムーズに進んでいないことを示唆するものです。

戦後日本の経済・産業を支えてきた中小企業の代替わりがうまく行かないことによって、そのような中小企業が途絶えてしまうと、長年蓄積された高度な技術やノウハウが散逸するおそれがあり、国内の経済・産業全体にとって大きなマイナスになりかねません。

そこで、このような事態に陥らないよう、高齢となった多くの中小企業の経営者による円滑な事業承継を実現・推進していくことが我が国経済産業界における喫緊の課題であると考えられます。

 

2 中小企業経営承継円滑化法の成立

 平成20年5月9日、中小企業の円滑な事業承継を支援することを目的とした「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(中小企業経営承継円滑化法)が成立しました。この法律では、3つの大きな柱として、①遺留分に関する民法の特例、②資金の供給等の金融支援制度、③相続税・贈与税の納税猶予の特例が定められていますが、今回は、①遺留分に関する民法の特例についてご紹介します。

 

3 遺留分に関する民法特例

  民法上の遺留分制度の詳細については、遺留分と遺留分減殺請求において詳しく説明していますのでそちらをご参照ください。

(1)制度の背景

ア 財産の分散防止

現経営者の推定相続人の一人(例えば、現経営者の長男)に事業を承継させたいという場合に、相続によって他の推定相続人に自社株式や事業用資産が分散する事態はなるべく避けなければなりません。しかし、生前贈与や遺言によって後継者(長男)に自社株式や事業用資産のすべてを集中させようとしても、他の相続人の遺留分を侵害することとなってしまう場合は、事業承継がうまくいかないことがあります。民法上は、遺留分の放棄という制度もありますが、他の相続人にとってメリットがなく、かつ、放棄する相続人自らがわざわざ相続開始前に家庭裁判所で申立てをして個別に許可を受けなければならないといった手続負担もあったことから、現実には非常に困難なもので、ほとんど利用されていませんでした。

イ 後継者と後継者以外の他の相続人との間で生じる不平等問題

また、現経営者から後継者に株式が生前贈与されていた場合、後継者の努力で株価が上がれば上がるほど、遺留分の対象となる基礎財産も相続開始時を基準に評価されるため、他の相続人の遺留分が増大する結果となってしまうという問題もありました。

(2)特例の内容

そこで、中小企業経営承継円滑化法は、このような遺留分に関する民法の特例として、経営者の推定相続人全員の合意により、経営者から推定相続人の一人である後継者に生前贈与された自社株式や事業用資産を遺留分算定の基礎財産から除外する「除外合意」と、遺留分算定の基礎財産に算入する際の価額を固定する「固定合意」を設けました。ご注意いただきたいのは、あくまでも生前贈与を念頭に置いた制度であるということです。事前に問題解決を図っておくことで、相続開始後の紛争を未然に防ぐことを目的としています。

ア 除外合意

除外合意とは、後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式その他一定の財産について、現経営者の推定相続人全員の合意によって、遺留分算定の基礎財産から除外することができるという制度です。

このように、遺留分減殺の対象から外すことで、遺留分の放棄をしてもらう必要がなくなり、自社株式等が相続により分散することを防ぐことが可能になります。

イ 固定合意

固定合意とは、後継者が現経営者から贈与によって取得した自社株式について、現経営者の推定相続人全員の合意によって、遺留分算定の基礎財産に算入する価額を合意時点の価額に固定できるという制度です。

この合意によって、遺留分算定の基礎財産に算入にあたり、この株式価額は合意のした時点の価額に固定されるので、後継者は、経営努力による株式の価値上昇のせいで遺留分が増大してしまうというマイナス面を考えなくてもよくなり、経営に専念できます。

なお、この合意にあたっての株式の価額は、適正さを担保するため、弁護士などの証明が必要となっています。

 

4 終わりに

  今回は、中小企業経営承継円滑化法における遺留分に関する民法の特例についてご説明しました。事業承継は法務・税務・会計など様々な要素が関係してくる複雑かつ煩雑なものです。制度をうまく活用して円滑な承継を進めるためにも、専門家に一度ご相談いただくことをおすすめします。

 

 

ページの上部へ戻る

Copyright(c) 2014 早稲田リーガルコモンズ法律事務所(遺言相続) All Rights Reserved.