【コラム】赤ペンで斜線を引いた遺言書の行方

2016-08-22

1.事件の概要

「この間、私の父が亡くなったのですが、金庫の中から亡くなった本人が書いたと思われる自筆証書遺言が見つかりました。そこには、大半の財産を他の兄弟に譲るという内容が。自筆証書遺言としては、形式的には有効なものと思われるのですが、一点だけ、腑に落ちない部分があるのです。

その自筆遺言証書には、文面全体に大きく、赤いボールペンで斜線が引いてあるのです。」

民法には、被相続人が自筆証書により遺言をすること(手書きで遺言書を作ること)を認めています。一方で、民法は、「遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。」と規定しています。「遺言書を破棄」というのは、典型的には、遺言書を破り捨てるような場合をいいます。

今回の事件で問題になったのは、破り捨てたのではなく、「赤いボールペンで文面全体に斜線を引いた」というものです。果たしてこれは「破棄」にあたるのでしょうか?

これは、最近最高裁まで争われた事件の概要です。

 

2.裁判所の判断

高裁では、遺言書に赤い斜線を引いただけでは、もともと書いてある文書の内容が判読できる以上、「破棄」とはいえない、として、遺言の内容を有効としました。

ところが最高裁は、これとは逆の判断をしたのです。曰く、「本件のように赤色のボールペンで遺言書の文面全体に斜線を引く行為は、その行為の有する一般的な意味に照らして、その遺言書の全体を不要のものとし、そこに記載された遺言の全ての効力を失われる意思の表れとみるのが相当である」と。

この判断に対しては色々な意見があるかもしれません。「最高裁のいうことはもっともだ」というものや「「破棄」っていう言葉と離れすぎていないか?」など。

 

3.自筆証書遺言のリスク

最高裁まで争われたというこの事件の評価は人それぞれでしょう。しかし、本当はもっと手前の部分に問題があるかもしれません。

民法は、確かに、自筆証書遺言を遺言の方式の一つとして認めています。しかし、民法は同時に、その有効性を厳しく制限しています。民法968条1項は、「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。」としています。例えば署名だけ自筆で、残りはパソコンで作った書面を作っても、法的に有効とはみなされません。厳格に法律の要件を満たした書面を作らなければ、被相続人の遺志は実現されないのです。今回の事件も、自筆証書であるがゆえに、最高裁まで訴訟を続けなければならなかった、と言えるでしょう。

しかも、自筆証書遺言は、保管を厳重にしなければなりません。誰かに捨てられたり、誰にも発見されないままでいると、被相続人の遺志は誰にも伝わらないまま、闇の中へと消えてしまいます。

 

4.リスクの回避方法

以上のようなリスクを回避するには、やはり相続の専門家である弁護士に相談するのが一番でしょう。自筆証書遺言を作成したり、その内容を変更したりしたい場合に、適切なアドバイスをすることができます。

また、公証役場で作成する公正証書遺言を作成するのもリスクを回避するのに有効です。公正証書遺言は、作成と同時に、公証役場に原本が保管されます。再発行が出来るので紛失という危険は避けることができますし、遺言者が亡くなった後は、法定相続人などは公証人役場にいけば遺言検索システムで公正証書遺言の有無を確認できるので、誰にも発見されないままになるリスクは低いといえます(なお、遺言者が亡くなる前は遺言者本人しか遺言検索システムで公正証書遺言の有無を確認できないため、遺言者が言わない限り作成したことを知られることはありません)。また、自筆証書遺言の場合のトラブルにありがちな、「被相続人に無理矢理書かせた」と言った文句を言われるリスクも低いと言えます。さらに、撤回をしたいときには、その旨を記載した撤回の公正証書遺言を作成することで、赤色ボールペンで文面に斜線を引くよりも確実にその内容を撤回、訂正することができます。

遺言の内容についても、専門家として、無事に相続人に財産が行き渡るよう遺言執行者を務めたり、付言事項によって相続人にメッセージを残すことも可能です。

遺言についてお悩みの方は、是非一度弊所にご相談ください。

 

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