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【コラム】寄与分

2016-12-15

 

相続が発生すると、①相続人の調査、②相続財産の調査、③相続分の確定、という3つの大きなステップを踏むことになります。③相続分の確定の場面では、相続人間で調整が必要な場合があります。具体的には、被相続人から特別の利益を受けていた相続人がいる場合(特別受益の問題)」と相続財産の維持又は増加に特別の寄与がある相続人がいる場合(寄与分の問題」などの場合、公平の観点から受益や寄与を適切に評価し、財産の相続時に調整をする必要があります。本コラムでは、「寄与分」について整理していきたいと思います。

 

1 「寄与分」の計算方法

 寄与分が想定されている場面は、①相続人が被相続人の事業に協力し親の財産形成に貢献してきたような場面、②相続人が被相続人の介護や看護をすることでケアサービスなどの費用を抑え財産維持に貢献してきたような場面、が法律では典型的に想定されています(民法904条の2第1項)。

 寄与分の計算方法は、寄与者の相続額は、(相続開始時の財産価格-寄与分の価格)をみなし財産とし、みなし財産×相続分+寄与分の価格となります。

2 「寄与分」の要件

 まず、寄与分は、単に相続人が被相続人のお世話をしていたからといって認められるわけではありません。寄与分が認められるためには、①事業や看護などの寄与行為が存在すること、②寄与行為が被相続人との身分関係において通常期待される協力、援助を超えた程度であること、すなわち「特別の寄与」といえること、③相続人の寄与行為が相続人の財産の維持または増加させたこと、が必要とされています(民法904条の2第1項)。

まず、要件①にあたる寄与行為の類型としては、大きくわけて5つあります。これに従って、被相続人への貢献・協力を整理することが有用です。

(ⅰ)被相続人のために家事労働をしてきた類型

(ⅱ)被相続の事業のために出資や借金返済をした類型

(ⅲ)生活費を渡してきた類型、

(ⅳ)看病や介護をしてきた類型

(ⅴ)財産を管理してきた類型

次に、要件②の「特別の寄与」は、通常期待される程度の協力・援助を超えている必要があります。ここに通常期待される程度の協力・援助とは、民法が定める夫婦間の協力扶助義務、親族間の扶養義務のことをいいます。親族として当然の協力・援助を超えて、通常期待される程度を超える程度と評価されるかは、それまでの人的関係や頻度、対価性がない、期間などを総合的にみて判断されます。

例えば、単に、被相続人を介護していた事実、被相続人の病院への送迎をしていた事実などはこれにあたりません。療養看護の例でいえば、重い老人性痴ほう症の被相続人を10年にわたり看護してきた事例などが「特別の寄与」にあたると判断されました(盛岡家庭裁判所昭和61年4月11日家月38巻12号17頁)。

 

3 寄与分の財産評価

 寄与分の主張は、相続分の決定の場面、つまり相続財産を分けた時に各相続人がどれぐらいの相続財産を取得できるか、という場面で機能します。そのため、事業への資金提供や財産給付など寄与行為について金銭的評価が容易である場合には、それに基づいて判断されることになります。他方で療養・看護などの家事労働や家業への労務提供は、金銭的な評価が容易ない場合には、全財産に対する割合で定める方法や具体的な金額をもって算定する方法をもって判断されることになります。

 

4 裁判所での調査官による寄与分調査

 このように、寄与分の主張は、相続人と被相続人との間の関係を個々に見ていくことになります。そのため、他の相続人が知らぬところの事実が出てきたりして、言い分がぶつかり、協議がまとまらない場合が起こりえます。

 遺産分割協議の調停を申し立てた場合、裁判所は、事実の調査や評価について家庭裁判所調査官による調査を行うことがあります。裁判官が調査官による調査を命じた場合には、調査官が既に提出されている書面や資料をもとに調査をし、分析・評価し、報告書を作成します。

 遺産分割調停が成立しない場合、裁判所が審判という最終的な判断を示しますが、上記調査報告書は、1つの判断資料として重要な役割を担います。

 

5 まとめ

 このように、寄与分は、人的関係や期間、対価性がないことなどを総合的に判断していることが求められます。適切にご自身の主張をするためにも、弁護士にご相談ください。

 

【コラム】中小企業の事業承継と遺留分に関する民法の特例

2015-11-19

1 中小企業の円滑な事業承継は喫緊の課題である

東京商工リサーチの2014年の調査(http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20141002_01.html)によれば、現在、企業の代表者の平均年齢は60.6歳であると言われており、中小企業経営者の高齢化は深刻な状況となっています。これは、現経営者による後継者への事業の承継がスムーズに進んでいないことを示唆するものです。

戦後日本の経済・産業を支えてきた中小企業の代替わりがうまく行かないことによって、そのような中小企業が途絶えてしまうと、長年蓄積された高度な技術やノウハウが散逸するおそれがあり、国内の経済・産業全体にとって大きなマイナスになりかねません。

そこで、このような事態に陥らないよう、高齢となった多くの中小企業の経営者による円滑な事業承継を実現・推進していくことが我が国経済産業界における喫緊の課題であると考えられます。

 

2 中小企業経営承継円滑化法の成立

 平成20年5月9日、中小企業の円滑な事業承継を支援することを目的とした「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(中小企業経営承継円滑化法)が成立しました。この法律では、3つの大きな柱として、①遺留分に関する民法の特例、②資金の供給等の金融支援制度、③相続税・贈与税の納税猶予の特例が定められていますが、今回は、①遺留分に関する民法の特例についてご紹介します。

 

3 遺留分に関する民法特例

  民法上の遺留分制度の詳細については、遺留分と遺留分減殺請求において詳しく説明していますのでそちらをご参照ください。

(1)制度の背景

ア 財産の分散防止

現経営者の推定相続人の一人(例えば、現経営者の長男)に事業を承継させたいという場合に、相続によって他の推定相続人に自社株式や事業用資産が分散する事態はなるべく避けなければなりません。しかし、生前贈与や遺言によって後継者(長男)に自社株式や事業用資産のすべてを集中させようとしても、他の相続人の遺留分を侵害することとなってしまう場合は、事業承継がうまくいかないことがあります。民法上は、遺留分の放棄という制度もありますが、他の相続人にとってメリットがなく、かつ、放棄する相続人自らがわざわざ相続開始前に家庭裁判所で申立てをして個別に許可を受けなければならないといった手続負担もあったことから、現実には非常に困難なもので、ほとんど利用されていませんでした。

イ 後継者と後継者以外の他の相続人との間で生じる不平等問題

また、現経営者から後継者に株式が生前贈与されていた場合、後継者の努力で株価が上がれば上がるほど、遺留分の対象となる基礎財産も相続開始時を基準に評価されるため、他の相続人の遺留分が増大する結果となってしまうという問題もありました。

(2)特例の内容

そこで、中小企業経営承継円滑化法は、このような遺留分に関する民法の特例として、経営者の推定相続人全員の合意により、経営者から推定相続人の一人である後継者に生前贈与された自社株式や事業用資産を遺留分算定の基礎財産から除外する「除外合意」と、遺留分算定の基礎財産に算入する際の価額を固定する「固定合意」を設けました。ご注意いただきたいのは、あくまでも生前贈与を念頭に置いた制度であるということです。事前に問題解決を図っておくことで、相続開始後の紛争を未然に防ぐことを目的としています。

ア 除外合意

除外合意とは、後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式その他一定の財産について、現経営者の推定相続人全員の合意によって、遺留分算定の基礎財産から除外することができるという制度です。

このように、遺留分減殺の対象から外すことで、遺留分の放棄をしてもらう必要がなくなり、自社株式等が相続により分散することを防ぐことが可能になります。

イ 固定合意

固定合意とは、後継者が現経営者から贈与によって取得した自社株式について、現経営者の推定相続人全員の合意によって、遺留分算定の基礎財産に算入する価額を合意時点の価額に固定できるという制度です。

この合意によって、遺留分算定の基礎財産に算入にあたり、この株式価額は合意のした時点の価額に固定されるので、後継者は、経営努力による株式の価値上昇のせいで遺留分が増大してしまうというマイナス面を考えなくてもよくなり、経営に専念できます。

なお、この合意にあたっての株式の価額は、適正さを担保するため、弁護士などの証明が必要となっています。

 

4 終わりに

  今回は、中小企業経営承継円滑化法における遺留分に関する民法の特例についてご説明しました。事業承継は法務・税務・会計など様々な要素が関係してくる複雑かつ煩雑なものです。制度をうまく活用して円滑な承継を進めるためにも、専門家に一度ご相談いただくことをおすすめします。

 

【コラム】SNSの扱いについて

2015-11-04

1 Facebook追悼アカウント-亡くなった後のことを今から考える

先日、代表的なSNSの一つであるFacebookにおいて、利用者が生前に追悼アカウントを作成することが出来るようになりました。追悼アカウントを作成すると、利用者が亡くなった後も「追悼」との表示の下、Facebookにアカウントが残されることになります。これにより、利用者が亡くなった後も、友達や家族が集い、その人の思い出をシェアする出来るサービスとなります。

このように自分が亡くなった後、残される人々に対して、自分の意志を伝える方法としては、従来から遺言が利用されてきました。

もっとも、遺言というと、ついつい遺産をどのように配分するかを決めるだけでしょ?と思いがちです。しかしながら、遺言に記載できる事項は、遺産の配分だけに限られる訳ではありません。遺産以外にも、例えば、自分の死後の葬儀の方法や献体・臓器提供の希望、ペットの世話を誰に見て欲しいものか等というものまで、さまざまな内容を、「付言事項」として記載することが出来ます。今回は、この付言事項の注意点等についてお話ししたいと思います。

 

2 付言事項って何?

付言事項には、相続人に対する法的な拘束力はありません。しかしながら、遺言者の最後の遺志を示すものであるため、相続人が尊重する可能性は一般に高いといえます。

また、付言事項には、遺産の配分を決めた理由を記載することが出来ますが、これを述べることにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる場合もあります。例えば、遺留分を侵害する遺言書を残した場合に、配分について十分な説明がなければ不利に扱われた相続人は不満に思うことがほとんどでしょうが、その理由をきちんと説明すれば納得してくれる可能性もあります。

付言事項を残すことにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる一方で、内容によってはかえって不利に扱われる相続人の不満を増す結果に終わることも考えられます。そのため、付言事項を残す際には、遺産の配分と同じように慎重に内容を精査する必要があります。

また、付言事項を記載した遺言書を作成していたとしても、自筆証書遺言(遺言内容、作成日付、氏名を遺言者が自筆し、押印した通常の遺言書のことです。)だと、相続人が発見できないこと等の理由により、結局実現できないケースも考えられます。そこで、遺言を公正証書で作成し(公正証書遺言といいます。)、さらに遺言施行者を指定しておくことで、速やかに付言事項を含め遺言書の内容を実現することができるようにしておくなどの工夫が必要です。

ここまで説明してきましたとおり、付言事項には法的拘束力はありませんが、最後の遺志を示すものとして重要です。そして、その書き方には十分な配慮が必要となります。

現在、遺言の作成をお考えの方は、弁護士が内容を確認させていただき、アドバイスすることもできますので、財産の分与以外に残されることになる方々へ言い残しておきたい事項がある場合には、是非一度弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】経営者の相続・事業承継

2015-10-29

同族経営の会社では、次の世代へのスムーズな事業承継に向けて、計画的に準備をしておいた方がよい事項があります。

 

1.株式について

相続に当たって株式を承継させる相手方やその割合の決定は重要です。もし、自分が保有している株式を承継させる相手方や割合を既に決めているのであれば、遺言書を作成してその旨を予め定めておくことが望ましいでしょう。もっとも、承継株式の評価額如何によっては注意が必要です。例えば、遺言によって自分の長子に保有株式の全部を承継させたところ、他の相続人の遺留分(遺言・相続業務メニュー「遺留分と遺留分減殺請求」参照)を侵害する結果になるようなケースです。この場合、せっかく、経営権の円滑な承継を企図して遺言書を作成したのに、遺留分をめぐって相続人間に紛争が発生してしまう可能性もあるわけです。

この点に関連して近時注目されているのが「経営承継円滑化法」です。この制度は、株式を後継者(推定相続人に限ります。)に承継させるに当たって、推定相続人全員の合意により、当該株式を遺留分算定の基礎財産から除外し(除外合意)、又は、遺留分算定額を予め固定する(固定合意)というものです。なお、当該合意について、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得る必要があります。

ところで、社歴の長い会社では、数世代の相続を経るうちに株式の保有者が拡散してしまうことがあります。株主が拡散すれば、経営に対して様々な介入を受けるリスクが発生します。相続による株式の拡散を防止する見地から、会社法は、会社が相続人等に対して承継した株式を売り渡すよう請求できる制度を設けています。このような相続を見据えた会社の定款設計も重要なポイントです。

 

2.取引先について

中小企業では、経営者の人的信頼関係に基づいて商取引が継続している場合があります。長年の取引先であるからといって安心していても、世代交代を機に取引が終了してしまうことも多々あります。こうした問題は、いきなり後継者にバトンタッチするのではなく、一定期間、新旧共同して経営に関与することにより対処するしかありませんが、法的にも留意すべき点があります。いわゆる「チェンジ・オブ・コントロール条項」です。これは、契約の一方当事者の経営陣や支配株主に変更があった場合に、反対当事者が当該契約を解除したり、変更したりすることができるという条項です。現在、効力のある契約書中にこのような条項がないかを確認し、必要に応じて、相続・遺贈による株式の承継を条項から除外するなどの措置を検討することも重要です。

 

3.金融機関について

金融機関との関係においては、融資契約における保証の問題があります。経営者個人が会社の連帯保証人になっているケースは非常に多くあります。近時公表された「経営者保証に関するガイドライン」では、金融機関に対し、事業承継に伴う後継者との保証契約の締結や前経営者との保証契約の解除について、その必要性等の検討を求めています。事業承継をきっかけに、会社の財務基盤やガバナンスを見直すことで、金融機関と保証契約について協議することも可能になるといえるでしょう。

 

このように、事業を承継する場合には様々な課題がありますが、会社の事業構造を見直す絶好の機会であるともいえます。専門家を交えてぜひ事業承継の戦略を練ってください。

 

【コラム】死亡退職金の相続

2015-10-19

1 退職金とは

  退職金は、在職中の功績をたたえて退職時に勤めていた本人が受け取るのが通常です。

しかし、会社在職中に本人が亡くなってしまった場合には、本人は退職金を受け取ることができません。定年間近で本人がお亡くなりになってしまった場合と、定年直後にお亡くなりになってしまった場合で取り扱いが異なってしまうのでしょうか。

 

2 死亡退職金とは

実は、本人が会社在職中に亡くなってしまった場合でも、ご家族に退職金が遺族に支給される場合があります。これが、死亡退職金です。

また、家族や兄弟で経営している会社であれば、定年のない役員が亡くなるまで在籍し、退職金が死亡退職金となるような場合もあります。

では、どういった場合に死亡退職金が支給されるのでしょうか。

死亡退職金が遺族に対して支給されるには、まず、故人が退職金を受け取れる地位になければなりません。会社の就業規則(会社で働く際のルールを定めたもの)には、一般的に、「勤続◯◯年以上の労働者が退職又は解雇された時は、退職金を支給する」などと書いてあります。さらに、一般的な就業規則には、「退職金は、支給事由が生じた日から、○○ヶ月以内に、退職した者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う」などと記載されています。この、「死亡による退職の場合はその遺族」という記載が、死亡退職金が遺族に支給される根拠となります。

 

3 死亡退職金が相続財産となるかどうか

(1)死亡退職金を誰が受給するか決まっている場合

   就業規則などで、あらかじめ死亡退職金を誰が受給するかが決まっている場合を考えてみます。この死亡退職金は、相続財産には含まれません。あくまで指定された受取人個人の財産となるのです。したがって、決まっている受給者が原則的には全てもらうことができますし、相続放棄をしても受給できます。国家公務員の死亡退職金も、相続財産になりません。地方公務員も多くは同じ扱いです。

そうすると、相続で問題は生じないようにも思えますが、実はここに落とし穴があります。

お亡くなりになった方の相続人が複数いて、そのうちの1人に対して、1億円の死亡退職金が支払われた場合を考えてみましょう。この場合、お亡くなりになった方の自宅、預貯金などの相続財産が全体で5000万円だったとすると、5000万円の相続財産を相続人で分割すると、1億円の死亡退職金を受け取った人のみが実際には多くの財産を得てしまうこととなります。これは不公平だということで、法律では、1億円の死亡退職金を受け取った人には特別受益があるとして、5000万円の相続財産を分割する際、取り分を調整するということが行われます。

(2)死亡退職金を誰が受給するか決まっていない場合

   この場合は、退職金には、給与の後払的性格があるとして、未払賃金と同様に考え、相続財産となると考えられています。

ただし、(1)のような形で就業規則を作成している会社が一般的です。勤め先の就業規則を確認しておくことが、必要になります。

 

 

4 死亡退職金への課税

  相続財産とならない死亡退職金でも、相続税の対象となる場合がありますので注意が必要です。

  法律上、退職手当金等を遺族が受け取る場合で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続財産とみなされて相続税の対象となります。受け取る人が相続人であれば相続財産として、相続人でない場合は遺贈によって取得したものとみなされる扱いとなっています。

【コラム】相続法に改正の動き(後半)

2015-09-14

1 相続法制検討ワーキングチームの報告書

今年(平成27年)の2月に法務省が設置した相続法制検討ワーキングチームの報告書が公表されました。前回に引き続き、その内容をご紹介します。

 

2 報告書で検討されたテーマ

(1)寄与分制度の見直し

親の財産の維持又は増加について、特別に貢献した場合は、寄与分として相続分の上乗せを求めることができます。

高齢の親への典型的な貢献は介護です。高齢者の介護は、長期間身体的・精神的に大きな負担がかかるものです。また、子が親の介護のために、子ども自身が多額の金銭を支出しているような場合もあります。

しかしながら、介護は、常に親の財産の維持又は増加をもたらすわけではありません。それゆえ、いくら過酷な「介護」をしても、それが「寄与」であるとは認められない場合があるというのが現在の寄与分制度の問題点です。現在の実務の運用では、介護による寄与を認めないというケースは想定しにくいですが、寄与分の制度上はそういったケースもありえます。

この問題点に対して、寄与の形として、財産の維持又は増加だけでなく、介護をしたことを法律に追加するという案が検討されています。現在の寄与分のあいまいな点を、はっきりした形に修正することとなります。

 

(2)遺留分制度の見直し

遺留分制度についての基本的な内容は、弊事務所ホームページの「遺留分と遺留分減殺請求(http://souzoku.legalcommons.jp/iryubun/)」をご参照下さい。

ア 遺留分制度の問題点

この遺留分制度について、現在3つの問題点があると指摘されました。

(ア) 遺留分減殺請求では、寄与分が考慮できないこと

遺産分割にあたっては、相続人の寄与分についても協議した上で、遺産分割の額を決めますが、遺留分減殺請求事件では、寄与分は考慮できないと考えられています。したがって、例えば、夫が死亡して妻と子が相続人となり、遺言で、子に全ての財産を相続させるということになっていた場合、妻は子に対して遺留分減殺請求をすることができます。しかし、遺留分として認められるのは、法定相続分のさらに半分までです。遺産のほとんどが実質的には夫婦の共有の財産であった場合のように、妻が夫の財産形成に多大な貢献をしていたとしてもその寄与は全く考慮されないのが現行の制度です。

(イ) 相続による法律関係を柔軟かつ一度で解決できないこと

現在の法制度では、遺留分減殺請求権が行使されると、相続人は、相続財産を全員で共有することになります。例えば、土地について遺留分減殺請求がされると、その土地は相続人間で共有することになります。そうすると、その分割をするために、あらためて共有物の分割手続を行わなくてはなりません。

また、遺産分割事件は家庭裁判所の手続となるのに対し、遺留分減殺請求事件は、地方裁判所の訴訟手続となるということも、柔軟かつ一回での解決を妨げていると指摘されました。

(ウ) 事業承継の障害となっていること

親が、子のうちの一人に家業を継がせるため、株式や店舗などを相続させる旨の遺言をしたとしても、他の相続人は、遺留分減殺請求権を行使することで、これを邪魔することができます。このことが、円滑な事業承継の妨げになっているのではないかとの指摘がされました。

イ これらの問題への対応策

(ア) 遺留分減殺請求では、寄与分が考慮できないことについて

配偶者の遺留分を、現在の4分の1から、2分の1まで引き上げるという案や、遺留分の算定の基となる財産について、夫婦共有財産と被相続人固有の財産に分けて考えるべきであるという案、子が遺留分を取得できるのは、親が子を扶養するために本来出すべき額に足りていない場合にのみ、その不足分のみ認めるという案が検討されました。

現在のところ、基本的には、配偶者の遺留分を拡大し、子の遺留分を縮小する方向で検討されています。

(イ) 相続による法律関係を柔軟かつ一回的に解決できないことについて

これについては、遺留分減殺請求の行使によって自動的に共有となるのではなく、その後、その分け方を協議の上合意してはじめて減殺請求の効力が生じるとする案、兄弟姉妹以外の相続人の寄与分がある場合は、これも考慮することで一回での解決を図るという案、遺留分減殺請求事件については、遺産分割協議事件とあわせて家庭裁判所でできるようにするという案が提案されました。

今後、遺留分制度と遺産分割制度、寄与分制度などを総合的に1回で解決するための制度づくりが検討されるものと考えられます。

(ウ) 事業承継の障害となっていることについて

(ア)でも触れましたが、財産の性質によって遺留分の範囲を変えるという案で対応できるのではないかと議論されています。

相続財産・遺留分については、今後は、その実質を踏まえて法制度上も細分化されていく可能性があります。

【コラム】相続法に改正の動き(前半)

2015-09-01

1 相続法制検討ワーキングチームの報告書

  今年(平成27年)の2月に、法務省が設置した相続法制検討ワーキングチームの報告書が公表されました。

  このワーキングチームは、嫡出子と非嫡出子に関する、平成25年9月4日の最高裁判決で、民法900条4号が、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていたことは違憲だと判示されたことを受けて、民法を改正する際に、相続法全般について見直しの声があがったことをきっかけに設置されたものです。ちなみに、嫡出子と非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある夫婦の子(嫡出子)と、そうでない男女の間の子(非嫡出子)のことです。

  この報告書で指摘されている事項は、これからの相続法改正に反映される可能性が高いと言えます。本稿では、その内容を大まかに紹介します。

 

2 報告書で検討されたテーマ

  今回検討されたのは、①配偶者の一方が死亡した場合に、もう一方の配偶者の居住権を保護するための措置、②世話をしていた配偶者の貢献を遺産分割に反映するための法定相続分の見直し、③寄与分制度の見直し、④遺留分制度の見直しという大きく分けて4つのテーマです。本稿では、①と②について紹介し、③と④については次のコラムでご紹介いたします。

 

(1)配偶者の一方が死亡した場合に、もう一方の配偶者の居住権を保護するための措置

   2人暮らしの夫婦で夫が亡くなった場合、夫と長い間一緒に暮らしてきた妻は、これまで一緒に住んでいた家に引き続き住みたいと思うことが多いと思います。

   しかしながら、現在の法制度では、必ずしも妻が一緒に住んでいた家に住み続けることができる制度にはなっていません。つまり、夫と一緒に住んでいた家は妻だけでなく子どもも相続することとなるので、子どもとの間でいさかいが起きて妻が住み続けることができなくなってしまう場合があるのです。この妻を守るために、一時的には居住権を認める判例はありますが、これにも限界があります。

   そこで、今回のワーキングチームにおいては、このような配偶者かつ相続人である者が、これまで住んでいた家に住み続けられることを法律的に認める制度をつくることを検討しています。具体的な方法はまだ固まっていませんが、配偶者の居住権を保護する方向で検討されているようです。

   

(2)配偶者の貢献に応じた遺産の分割等を実現するため法定相続分の見直し

   近年は、結婚の態様も様々になってきており、長年連れ添ってきた夫婦もいれば、年齢を重ねた後に再婚した夫婦もいます。また、家庭内での夫婦の協力関係も、家ごとに大きく異なります。このように、夫婦といってもその内実は千差万別です。にもかかわらず、民法上の法定相続分は、配偶者という地位だけに着目しているので、その貢献にかかわらず一律に定めています。このような制度は社会の実情に合わないのではないか、もっと夫婦の実情に合わせた制度にできないのかということで議論がされました。

   そこで提案された案としては、①離婚のときの財産分与のような形で、夫婦の共有財産を清算するという案や、②遺産の属性に応じて法定相続分の割合を変動させるといった案などが検討されました。

   いずれも一長一短ある案ですので、どのような手段となるかはこれから詰めていくことになりますが、これまで一律に決まっていた法定相続分が根本的に変更される可能性があります。

 

【コラム】寄与分の計算方法

2015-07-07

1 寄与分の計算方法

 寄与分は、法律でその計算方法が決まっているわけではありません。ただし、これまでの裁判の積み重ねから、寄与分の計算方法は実務上ある程度固まっており、だいたいの目安を把握することができます。どのような形で相続人が被相続人に寄与をしたのかに応じて計算方法が異なりますので、以下、具体的に見ていきます。

 

(1)被相続人への労務の提供型

  被相続人が営んでいた事業に、無報酬又はこれに近い状態で従事していた場合がこれにあたります。この類型は、さらに細分化されて、①家業従事型、②従業員型、③共同経営型があります。

① 家業従事型、② 従業員型

  寄与分額=寄与者の受けるべき相続開始時の年間給与額×(1-生活費控除割合)×寄与年数

  複雑な式で、あまりイメージがわかないと思いますが、親の会社を5年ほど手伝っていたが、お小遣い程度しか給与をもらっていなかったといったケースがこれにあたります。まず、本来であれば年にこれくらいは給与として支払われるべきという額を決めます。仮にこれが500万円だとすると、500万×(1-生活費控除割合(だいたい0.5くらいが相場です))×5年ということで、1250万円が寄与分ということになります。

 ③ 共同経営型

  寄与分額=(通常得べかりし報酬+利益配分)-現実に得た給付

  家業に共同経営者として参加していたが、家族ということもあって報酬が安めだったというような場合です。利益配分とは、例えば持っていた株の配当などがこれに当たります。

 

(2)被相続人への財産の提供型

  被相続人に対し、相続人が財産を渡したという、一番ストレートな寄与分のパターンです。

  どのような財産をいかなるかたちで提供したかによって、計算式は異なります。

  ①不動産取得のための金銭贈与の場合

   寄与分額=相続時の不動産価額×(寄与者の出資金額÷取得時の不動産価額)

   親が土地を買う場合に、子が購入費用を援助したといったケースがこれにあたります。仮に、購入価額2500万円、土地の購入にあたって500万円を子が支払い、相続時には土地が3000万円まで上がっていたという場合は、600万円が寄与分となります。

  ②不動産贈与の場合

   寄与分額=相続開始時の不動産価額×裁量的割合

  ③不動産の使用貸借の場合

   寄与分額=相続開始時の賃料相当額×使用年数×裁量的割合

   使用貸借とは、無償で家などを貸すことをいいますので、仮に賃貸借であれば賃料はいくら位になるかを検討した上で計算していきます。

  ④金銭贈与の場合

   寄与分額=贈与当時の金額×貨幣価値変動率×裁量的割合

 

(3)被相続人の療養看護

  介護の必要な被相続人に対し、相続人が介護を行っていたといったケースがこれにあたります。①相続人が実際に療養看護を行っていた場合と、②第三者に療養看護をさせ、その費用を相続人が負担していた場合が考えられます。

  ①実際に療養看護を行った場合

   寄与分額=介護福祉士・ヘルパーの日当額×療養看護日数×裁量的割合

   相続人が介護を行った場合の寄与分の計算は、介護福祉士・ヘルパーを雇わずに済んだことによって、被相続人の財産の流出を防げたことを寄与と考えます。そこで、この介護福祉士・ヘルパーの日当額を基準として計算がなされます。介護福祉士・ヘルパーの報酬は介護報酬基準額をもとに計算されますが、相続人がこれを職業とはしていないことを考慮して、報酬基準額の7~8割程度の額となることが多いようです。

  ②第三者に看護させ、子が費用負担した場合

   寄与分額=費用負担額

   この場合は、介護福祉士やヘルパーを雇うのに費やした費用がそのまま寄与分となると考えられています。

(4)裁量的割合とは

   これまで見てきた計算式には、裁量的割合という言葉が何回か出てきました。

   これは、裁判所が個々の事案に応じてバランスを取るために判断するものであり、被相続人との身分関係、相続人が失った収入などを考慮して判断されます。

 

 

【コラム】寄与分の請求方法

2015-04-13

前回、寄与分についてお話させていただきました。

今回は、その続きとして、寄与分をどうやって請求していくかを説明します。

 

(1)請求方法

ア 請求できる人

寄与分を請求できるのは、相続人です。相続人に当たらない方は寄与分を請求できません。

イ 請求額の算定方法

(ア)寄与分自体の算定方法

寄与分がいくらか、そこで、民法の規定では、まずは相続人間での遺産分割の協議で、話し合いで額を決めるということになっています。ただし、これまでの事例の集積から、実務上は、ある程度の額は計算式をもって算定できるようになっています。

(イ)寄与分と相続財産の関係

話し合いの結果、寄与分の額が決まったら、相続財産の分配がなされます。「特別の寄与」によって、相続財産が増加したのですから、その分は、相続財産から除きます。そして、「特別の寄与」をした者に対して、その相続分に寄与分を加算するという取り扱いになっています。

 

 

(2)話し合いがまとまらない場合

話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の調停もしくは審判をすることになります。

ア 調停

調停をする場合は、2通りの方法があります。

寄与分を定める調停だけを申し込む方法(下図①)、遺産分割調停の中で、寄与分を定める調停を申し込む方法(下図②)です。

調停は、調停委員を間に介し、当事者間の合意形成を目指す手続で、合意を強制するものではありません。したがって、調停がまとまらないことも当然考えられます。

イ 審判

このような場合は、次のステップである、審判に移行します(下図④)。審判とは、裁判官が,当事者から提出された書類や家庭裁判所調査官が行った調査の結果等種々の資料に基づいて判断し決定する手続であり、裁判と比べると簡易な手続ですが、判断者として裁判官が存在することが調停との最大の違いになります。

遺産分割調停が不調に終わった場合は、自動的に審判に移行します(下図③)。

一方で、寄与分を定める調停だけを申込んでいた場合は、その後、遺産分割の審判(下図③)を申立てておかなければ、民法904条の2第4項の規定により審判の申立は不適法として却下されてしまいます。

このあたりの手続は複数あり、また、遺産分割手続については、調停からでも、審判からでもできるなど、複雑であり、各手続き選択に手間や費用の面でメリット・デメリットが存在します。多くの方は人生で何度も経験する手続きではありませんので、最適な方法を選択することはなかなかに困難なことだと思います。

弁護士としては、法的知識や実務上の経験から、依頼者の方々の希望をうかがったうえで、最適な手続きをともに考え、迅速かつ満足の行く解決を図っていくことになります。

ウ さらなる不服申立て

仮に、審判決定の内容も納得出来ない内容の場合は、審判決定の内容について即時抗告をすることができます。この場合、高等裁判所であらためて審判をすることになります。高等裁判所の審判決定については、原則的には、これに対する不服申立てをすることはできません。

相続図クリックして拡大してください。

 

【コラム】寄与分とは

2015-04-06

大介護時代

現代日本は大介護時代だと言われています。我が国が世界に誇る平均寿命の長さを支える裏側には、ご家族等による長期的かつ献身的な介護があります。特に、認知症が発症してしまった高齢者などの在宅介護の負担は、そのご家族等にとって肉体的にも精神的にも非常に過酷なものとなることが少なくありません。そして、多くの場合、そのようなご家族等は無償で介護を行っているのが通常です。

 

介護と相続

このように要介護状態となっていた被相続人が亡くなった場合、被相続人の財産について相続が発生します。ここでよく問題となるのが、相続分をめぐって相続人間で生じている不公平をどのように調整すべきかという問題です。例えば、長期にわたって被相続人の身の回りの世話をするなどしてその生前に過酷な介護の負担を強いられてきた相続人と、そうでない、例えば、遠方に居住していて被相続人の面倒は一切見ていなかったような相続人とがいた場合に、各相続人は単純に法定相続分に従った割合でしか相続財産を相続できないのでしょうか。もちろん被相続人が自己の身の回りの世話をしてくれている相続人に有利な遺言を残してくれていれば問題ありませんが、このような遺言がないケースでは、しばしば遺産分割を巡って相続人間でトラブルが発生します。

 

寄与分という制度

このような場合に頭の片隅においていただきたいのが「寄与分制度」です。寄与分とは、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者に、当該寄与の度合いに応じて優先的に相続財産を分配するという制度です。

上記介護のケースであれば、当該介護活動(療養看護)によって、相続財産が増加した、もしくは減少を免れたといえるのならば、これを寄与分として、一定割合の相続分を優先的に取得できることになります。

(1)制度の目的

寄与分という制度は昭和55年の民法改正で追加されました。それまでも事実上寄与分を認めていた判例はあり、一定程度定着していたものを法制化したものといえます。

制度の目的は、相続人間の「実質的衡平」を図るというものです。すなわち、相続人相互間で、ある相続人Aが被相続人の財産の維持または増加に貢献し、他の相続人Bが何も貢献しなかった場合に、BがAの貢献に基づく相続財産の維持増加分についてもAと等しい割合を相続分として取得するというのではさすがにバランスを失しますので、相続人間の公平を図るという観点から各相続人が取得する相続分を調整しようという考え方です。

(2)どのような場合に寄与分が認められるか

では、実際にどのような場合に寄与分が認められるのでしょうか。

法律上、その要件は相続人の「特別の寄与」行為によって、「相続財産の維持または増加」がもたらされたかどうかで判断されます。つまり、単に寄与行為があればよいというわけではく、かかる寄与行為によって実際に被相続人の財産が増加し、又は減少を免れた事実(相関性)がなければ寄与分が認められませんのでご注意ください。

そして「特別の寄与」とは、被相続人と相続人の関係(身分関係、扶養関係その他同居の有無などの生活実態)をベースに、通常期待される程度を超えて、財産の維持または増加に貢献したことをいいます。実務上は、

 ①無償性(報酬の有無、その額の多寡)

 ②継続性(労務提供の時期・期間)

 ③専従性(労務の内容)

 ④特別の貢献であるか(被相続人との身分、扶養関係・労務提供に至った事情)

などの事情を総合的に考慮して判断されます。

(3)実際に寄与分が認められた事例

介護に関連する判例を概観すると、例えば、認知症が進行した被相続人に対し、対価を求めず(①)、死亡するまでの約10年間(②)、付き添って療養看護を行った(③、④)相続人に対して寄与分を認めた審判例(盛岡家審昭和61年4月11日)や、2年6ヶ月に渡り(②)、高齢のため衰弱し入退院を繰り返すようになった被相続人を引き取って(④)、日常の世話・入退院の付き添いなど療養看護につとめた(③)相続人に300万円の寄与を認めた事例(広島高決平成6年3月8日)などがあります

 

次回は、寄与分をどのように請求すればよいかを説明します。

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