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【コラム】相続により負う債務への対応

2016-12-26

 1 「借金」も相続されます。

よくテレビドラマでは「お父様が亡くなったのは悲しいけれども、その遺産は5億円。母も既に亡くなっているし、私は1人っ子だからこの財産は全て私のもの。」などの光景が流れます。では遺産がなくて、逆に3億円の「借金」があるとすると、どうなるのでしょうか。相続により「借金」はなくなるのでしょうか。

じつは、「借金」(金銭債務)は、相続放棄や限定承認などをしない限り、相続することになります。つまり、なんの手当てもしないと、相続人は「借金」を相続することになってしまいます。

 

2 原則:各相続人の債務額は相続分に従って負います

相続人は、相続分(法定相続分又は遺言などで指定された相続分)に応じて「借金」(金銭債務)を負うことになります。言い換えると、お金を貸している人は、相続人に対して、当然に「貸したお金を支払え」と請求することができることになります。

なお、保証債務など契約の内容によって、相続人には債務を負わせないとする契約ものもありますので、すぐに応じるのではなく、まずはよく契約書を確認することが重要です。

 

3 ~事例を通して~

【事案1】Aさんには、妻と子(40歳)がいます。Aさんは友人Bから1000万円の借金をしていたとします。Aさんが亡くなった場合、相続人は妻と子の2人です。遺言もないことから、相続分は民法に従い、それぞれ2分の1ずつとなります(民法900条1号)。

【結論】この場合、お金を貸している友人Bは、相続人である妻と子に対して、それぞれ500万円ずつ支払うように請求することができます。

 

では次の場合はどうでしょうか。

【事案2】事案1と同様に、Aさんには、妻と子(40歳)がいます。Aさんは友人Bから1000万円の借金をしていたとします。Aさんは生前、「妻の相続分は4分の3、子の相続分は4分の1とする」という遺言を残していました。債権者Bは、その遺言の存在を知るはずもなく、子に対して、例1と同様に500万円を請求しています。子はこれに応じて払わなければならないのでしょうか。

【結論】現在の最高裁が定めたルールとしては、債権者Bが、法定相続分に従った請求した場合、「借金」を相続した相続人はその請求に応じなければなりません(最判平成21年3月24日)。差額である250万円については、相続人がいったん支払って、あとから他の相続人に自ら取り立てることになります。つまり、請求された人は、回収のリスクを一時的に負わされていることになります。

では仮に、債権者Bが遺言の存在を知っていた場合はどうでしょうか。この場合は、最高裁のルールでは、債権者Bが子の相続分が4分の1であることを承認した場合には、債権者Bは子に250万円をだけ請求することはできます。

 ですので、債権者からは法定相続分を基準として請求がされることになります。 

 

4 相続による債務を負うことの対応方法

相続をきっかけに、突然に「借金」を負う場合の対応方法としては、①相続放棄する、②限定承認をする、という2つの手段が考えられます。

相続放棄とは、はじめから相続人ではなかったことにする制度です(民法939条)。したがって、「借金」を負うこともなく、請求されても一切払う必要はありません。しかし、相続放棄は、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりませんのでご注意ください。

 また、限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナス財産も負担するものです。これには相続人に全員の同意が必要となり、1人でも反対すれば使えません。

 

 以上のとおり、相続によってある日突然、債務超過に陥ることもあり得えます。相続が発生した場合には、財産の調査を含めすぐにご相談ください。

【コラム】寄与分

2016-12-15

 

相続が発生すると、①相続人の調査、②相続財産の調査、③相続分の確定、という3つの大きなステップを踏むことになります。③相続分の確定の場面では、相続人間で調整が必要な場合があります。具体的には、被相続人から特別の利益を受けていた相続人がいる場合(特別受益の問題)」と相続財産の維持又は増加に特別の寄与がある相続人がいる場合(寄与分の問題」などの場合、公平の観点から受益や寄与を適切に評価し、財産の相続時に調整をする必要があります。本コラムでは、「寄与分」について整理していきたいと思います。

 

1 「寄与分」の計算方法

 寄与分が想定されている場面は、①相続人が被相続人の事業に協力し親の財産形成に貢献してきたような場面、②相続人が被相続人の介護や看護をすることでケアサービスなどの費用を抑え財産維持に貢献してきたような場面、が法律では典型的に想定されています(民法904条の2第1項)。

 寄与分の計算方法は、寄与者の相続額は、(相続開始時の財産価格-寄与分の価格)をみなし財産とし、みなし財産×相続分+寄与分の価格となります。

2 「寄与分」の要件

 まず、寄与分は、単に相続人が被相続人のお世話をしていたからといって認められるわけではありません。寄与分が認められるためには、①事業や看護などの寄与行為が存在すること、②寄与行為が被相続人との身分関係において通常期待される協力、援助を超えた程度であること、すなわち「特別の寄与」といえること、③相続人の寄与行為が相続人の財産の維持または増加させたこと、が必要とされています(民法904条の2第1項)。

まず、要件①にあたる寄与行為の類型としては、大きくわけて5つあります。これに従って、被相続人への貢献・協力を整理することが有用です。

(ⅰ)被相続人のために家事労働をしてきた類型

(ⅱ)被相続の事業のために出資や借金返済をした類型

(ⅲ)生活費を渡してきた類型、

(ⅳ)看病や介護をしてきた類型

(ⅴ)財産を管理してきた類型

次に、要件②の「特別の寄与」は、通常期待される程度の協力・援助を超えている必要があります。ここに通常期待される程度の協力・援助とは、民法が定める夫婦間の協力扶助義務、親族間の扶養義務のことをいいます。親族として当然の協力・援助を超えて、通常期待される程度を超える程度と評価されるかは、それまでの人的関係や頻度、対価性がない、期間などを総合的にみて判断されます。

例えば、単に、被相続人を介護していた事実、被相続人の病院への送迎をしていた事実などはこれにあたりません。療養看護の例でいえば、重い老人性痴ほう症の被相続人を10年にわたり看護してきた事例などが「特別の寄与」にあたると判断されました(盛岡家庭裁判所昭和61年4月11日家月38巻12号17頁)。

 

3 寄与分の財産評価

 寄与分の主張は、相続分の決定の場面、つまり相続財産を分けた時に各相続人がどれぐらいの相続財産を取得できるか、という場面で機能します。そのため、事業への資金提供や財産給付など寄与行為について金銭的評価が容易である場合には、それに基づいて判断されることになります。他方で療養・看護などの家事労働や家業への労務提供は、金銭的な評価が容易ない場合には、全財産に対する割合で定める方法や具体的な金額をもって算定する方法をもって判断されることになります。

 

4 裁判所での調査官による寄与分調査

 このように、寄与分の主張は、相続人と被相続人との間の関係を個々に見ていくことになります。そのため、他の相続人が知らぬところの事実が出てきたりして、言い分がぶつかり、協議がまとまらない場合が起こりえます。

 遺産分割協議の調停を申し立てた場合、裁判所は、事実の調査や評価について家庭裁判所調査官による調査を行うことがあります。裁判官が調査官による調査を命じた場合には、調査官が既に提出されている書面や資料をもとに調査をし、分析・評価し、報告書を作成します。

 遺産分割調停が成立しない場合、裁判所が審判という最終的な判断を示しますが、上記調査報告書は、1つの判断資料として重要な役割を担います。

 

5 まとめ

 このように、寄与分は、人的関係や期間、対価性がないことなどを総合的に判断していることが求められます。適切にご自身の主張をするためにも、弁護士にご相談ください。

 

【コラム】遺言によるトラブル防止のために。付言事項という予防線

2016-11-22

1.遺言の限界

遺言とは、自ら築いた財産を、死後、その意思に従って遺された人に分配するための制度です。ところが、遺言の内容は、必ずしもそのまま実現されるとは限りません。以下の事例を見ながら、遺言からどのようなトラブルが生じるか、検討してみましょう。

 

⑴登場人物

今回遺言を作成するのは、80代の男性A。Aには妻がいましたが、既に先立たれていますので、法定相続人は、50代の子である長男Bと、次男Cの2人のみです。

 

⑵遺言者Aの考え

Aは、自分がこれまでに働いて築いた財産を、自分の子であるBかCのうち、より自分の家計を助けてくれ、また、自分の生活を支えてくれた者に譲ろうと考えました。

経済面では、Bは高校卒業後すぐに家を出て独立して働きに出たため、Aに学費や生活費の負担もさほどかけていませんでした。一方、Cは、Aに大学の学費負担をさせた上、社会人になってからも何かとAに金銭的な援助をしてもらっていました。

また、生活面では、Bは、Aが妻に先立たれ、段々と体調も悪くなっていった時、わざわざAの近くに引っ越して一人で暮らすAの家事を手伝ってくれました。一方、Cは遠くに住んだまま、Aにあまり連絡もよこしませんでした。

このような事実を踏まえて、Aは、自分が亡くなった後、これまで金銭的な負担もかけず、家事を手伝うなどしてくれたBに残った財産を全て譲ろうと考え、その旨の公正証書遺言を作成し、自分が亡くなった後に備えたのです。その後程なくして、Aは死亡しました。

 

⑶法定相続人Cの考え

ここで、Cに視点を移してみましょう。Cは、Aが亡くなった後、遺言が残されていることを知り、その内容を見ました。そこには、「相続財産は全てBに相続させる」という言葉があるのみでした。何故自分は相続を受けられないのか、その理由について知ることができません。Aの遺言に納得できなかったCは、「BがAの自宅の近くに住み、家事を手伝うために週に数度、Aの家に出入りしていた。ひょっとしたら、Bは日頃からAに何か吹き込んでいたのかもしれない。」などと考え、Bに対して遺言の内容について不服を述べますが、Bはこれに取り合いませんでした。

ところで、民法は遺留分減殺請求という制度を設け、相続を受けられなかった法定相続人(ただし亡くなった人の兄弟、姉妹を除く)は、その法定相続分(この事例でいうと、BとCが2分の1ずつ)の半分までは、その取り戻しを請求することができます。

Cは、上述のとおり、遺言の内容に不服があったことから、この遺留分減殺請求をすることとしました(今回でいえば、相続財産全体のうち4分の1までの財産をBから取り戻すことができます)。

その後、結局、CとBの争いは、調停を経てもまとまらず、最終的に遺留分減殺請求訴訟にまで発展することとなりました。

 

2.遺言の内容から生じた訴訟

このように、Cが遺留分減殺請求をした場合、遺言を通じて残されたAの遺志は、残念ながら100パーセントは尊重されないことになります。さて、このように兄弟間での争いが訴訟にまで至ってしまったことの原因は、どこにあるのでしょうか。

ひょっとすると、その原因は遺言の内容そのものではなく、CがAから「きちんと説明を受けることが出来なかった」ことにあるのかもしれません。共に過ごした時間が長い分、家族の問題は多分に感情が入り込みます。感情の部分で納得できれば、訴訟という形で争いが顕在化することもなかったかもしれません。

 

3.付言事項って?

上記のような訴訟トラブルを避けるための方法として、遺言に「付言事項」を記載することが考えられます。今回は、この「付言事項」とは何かご説明しましょう。

まず、遺言の内容には、大きく分けて「法定遺言事項」と、「付言事項」があります。

前者の「法定遺言事項」は、遺言に記載することによって法的な効力を生じる事項を言います。例えば、相続財産の何を誰に譲るかといった内容(相続分の指定)などが挙げられます。一方、後者の「付言事項」は、「法定遺言事項」以外の事項、すなわち法的な効果を持たない内容を指します。

この「付言事項」は、法的な効力を持たない分、自由にその内容を記載することができます。最もよくされるのは、何故そのような内容の遺言となっているかの理由を記載した、遺言者の相続人へのメッセージです。遺言者が何を考え、残された家族にどう過ごして欲しいのかを記載することによって、家族への想いを残すことができるのです。

今回の事例では、Cはひょっとしたら、他ならぬAから、何故CではなくB

に財産を相続させるのかの説明を受け取れば、自分がAの財産を相続できない理由に納得し、Bに不服を述べることはなかったかもしれません。また、自分の親であるAから「BとCは、兄弟として仲良く過ごして欲しい」といったメッセージを受け取れば、兄であるBに対し、訴訟など提起することもなかったかもしれません。その意味で、法的にはともかく、付言事項には事実上の価値があると言えるでしょう。

遺言の内容のうち、付言事項は法的な意味を持つものではありません。しかし、多数の相続トラブルを目の当たりにしてきた弊所の弁護士は、このような事実上の効果も踏まえ、適切な内容の遺言を作成できるようアドバイスすることができます。さらに、弊所では映像で遺言者のメッセージを残す映像遺言サービスも行っています。大切な家族だからこそ、気持ちの部分もしっかり残したい。そのような方のご依頼を、弁護士一同お待ちしております。

 

【コラム】遺産分割の解除

2015-12-17

1、遺産分割協議の解除に関するご相談

「父の遺産分割協議について相談させて下さい。父は今年の3月に亡くなり、母も早くに他界していましたので、私と兄の二人だけが相続人になりました。父の財産は、自宅建物とその敷地、預金、株式などで3億円ほどありましたが、そのうち都心の一等地にある自宅建物とその敷地が約2億円と大部分を占めていました。都心の不動産が値上がりを続けていることもあり、兄はどうしても自宅建物とその敷地を欲しがっていました。私は、兄に自宅建物とその敷地を譲る代わりにその他の財産を相続することとし、さらに2000万円ほどの代償金を支払ってもらうことになりました。そして、その旨の遺産分割協議書を作成し、それぞれが署名・押印しました。ところが、兄は、相続税を払ってお金がないなどと言って、約束した代償金を払おうとしません。作成した遺産分割協議書はなかったことにして、改めて遺産分割協議をすることはできないのでしょうか。」

相続に関して、遺産分割協議をやり直すことができないかとご相談いただくことがあります。

今回は、遺産分割の手続きとそのやり直しについてご説明します。

 

2、遺産分割の手続きとそのやり直し

⑴遺産分割の手続き

亡くなられた方(「被相続人」といいます。)について、相続人が二人以上いる場合、遺産は相続人間の共有になり、当然に遺産を構成する各財産が当然にどの相続人に帰属するか定まるものではありません。

最終的な遺産の相続人への帰属は、遺産の分割を行うことによって決まります。

遺産の分割は、原則として相続人間の協議によって行われます。通常、相続人間の協議がまとまった場合は、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議ができないときは、家庭裁判所に対し、遺産分割調停の申立てを行うことになります。

⑵遺産分割のやり直し

売買契約などの一般の契約であれば、例えば売買契約で買主が売買代金を支払わない場合には、売主は、買主の代金支払債務の債務不履行を理由として契約を解除することができます。遺産分割についても、同様に相続人が遺産分割協議に際して定めた債務を履行しない場合に、債権者である相続人がこの遺産分割協議を解除することができるか問題になります。遺産分割には、前述のとおり、遺産分割協議と遺産分割調停の方法がありますので、それぞれの場合についてご説明します。

①遺産分割協議の債務不履行解除の可否

遺産分割協議について、最高裁判所は、相続人の一人が遺産分割協議の際に負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は債務不履行を理由として解除することができないと判断しています。なぜなら、一方的な意思表示による解除を認めると法律関係が複雑になり、法的安定性が著しく害されてしまうことになるからです。

②遺産分割協議の合意解除の可否

なお、債務不履行に基づく解除とは異なり、遺産分割協議を相続人全員の合意の下で解除することは、法的安定性を害するおそれは少ないので許されると考えられています。

③遺産分割調停の債務不履行解除の可否

遺産分割調停が成立し、その調停調書の中で定められた代償金の支払いについて、債務者である相続人が債務を履行しないときに、債権者である相続人が債務不履行に基づき解除を主張できるか問題となった裁判例があります。この裁判例は、調停は審判と同一の効果を有するため、新たな審判または調停によらなければその分割の効果を消滅させることができず、債権者である相続人は調停における合意を債務不履行に基づき解除することができないと判断しました。

 

3、最後に

これまでご説明してきましたとおり、今回ご相談いただいた遺産分割協議をやり直すことは、相談者のお兄様の同意がなければ難しいです。したがって、お兄様に対し、代償金について訴訟等を提起して請求することを材料としながら、遺産分割協議のやり直しについて交渉していくことになるかと思います。

遺産分割協議に基づく債務の履行状況についてお悩みがありましたら、相続の専門家である弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】遺言の撤回

2015-12-01

1 遺言の撤回に関するご相談

「私には、息子が二人います。同居していた長男に体調を崩した際の面倒をみてもらおうと、自宅の土地・建物を相続させる旨の公正証書遺言を作成しました。しかし、長男の浪費癖が発覚して私が注意したところ、長男との仲が険悪になってしまって長男が自宅を飛び出してしまいました。長男が出て行った後、次男が私の面倒を見に帰ってきて熱心に面倒を見てくれたので、次男への感謝の気持ちを込めて自宅の土地・建物を相続させたいと思っています。既に公正証書遺言を作成してしまっていますが、この遺言の内容を変更することはできるのでしょうか。」

遺言に関して、このような遺言の内容を変更したいというご相談をいただくことがあります。遺言の内容を変更したり、無かったことにすることを、遺言の「撤回」と言います。

今回は、遺言の撤回についてご説明させていただきます。

 

2 遺言の撤回

遺言の撤回は、遺言者が自由に行うことができます。そして、遺言を撤回する方法には、①新しく遺言をする方法、②遺言書を破棄したり、遺言により相続させるものを処分したりする方法の2つがあります。

まず、①の方法についてです。

この方法のうちの一つは、前に行った遺言を撤回する旨の遺言をするという方法です。例えば、「遺言者は、平成○年○月○日付で作成した公正証書遺言を全部撤回する。」というような文言の遺言を作成することが考えられます。

もう一つは、後から前に行った遺言と両立しない内容の遺言をする方法です。今回のご相談で考えると、次男へ自宅の土地・建物を相続させる、という遺言をすることになります。これにより、前に行った遺言は撤回されたものとみなされます。

そのため、日付の新しい遺言と日付の古い遺言では日付の新しい遺言が優先されることになりますが、日付の古い遺言の全部が無効になるわけではありません。あくまで、日付の新しい遺言と内容が食い違う部分に限り無効となります。

なお、日付の古い遺言が公正証書遺言である場合でも、新しい遺言は公正証書遺言である必要はなく、自筆証書遺言で行うこともできます。

次に、②の方法についてです。

わざと遺言書を破棄したり、遺言によって相続させるものを破棄・損壊したりすることにより、遺言を撤回したものとみなされます。ただし、公正証書遺言の場合は、公証役場に原本が保管されていますので、その正本や謄本を破棄するだけでは撤回することはできませんので注意が必要です。相続させるものを破棄・損壊するとは、例えば、遺言によって相続させようとしていた壺を破壊してしまうようなことを指します。相続させる対象が消滅してしまえば、その部分に対応する遺言の意味もなくなってしまうので、遺言が撤回されたことになるということです。

 

3 最後に

以上ご説明してきましたとおり、今回のご相談の場合には、次男に自宅の土地・建物を相続させる旨の遺言をすることで、長男に自宅の土地・建物を相続させる旨の遺言を撤回することができます。

前にした遺言の撤回以外にも、前にした遺言からの財産状況に応じた変更や遺言執行者を選任しておきたい、付言事項を追記したい等のご希望がある場合には対応させていただきますので、是非一度弁護士にご相談ください。

以上

 

【コラム】生命保険金の取り扱い

2015-11-26

1 生命保険金

 本人の亡くなった時に支払われる生命保険金は、本人が受け取ることはできません。生命保険金は、保険会社の商品によって、あらかじめ決めていた特定の人物に支払われることになっていたり、相続人に支払われるとなっていたり、特に何も記載がなかったりと様々な内容になっています。

 多額の生命保険が、例えば子のうちの一人に対して支払うことになっていた場合、それは相続財産になるのでしょうか。また、他の子や配偶者は、このような一人だけに支払われる生命保険金に対して、不公平であることを理由として異議を唱えることはできないのでしょうか。

 

2 生命保険金が相続財産となるかどうか

(1)生命保険金を誰が受給するか決まっている場合

  生命保険金を受給する人物が、保険の契約上あらかじめ決まっている場合は、生命保険金を受け取る権利は、受取人として指定されている者の固有の権利となると考えられています。したがって、相続財産には含まれません。その結果、遺産分割の対象にはなりませんし、遺留分算定の基礎財産にも含まれません。また、受取人が相続人かどうか関係なく受給することができることになります。

(2)生命保険人の受取人を指定していない場合

ア 受給者を「相続人」としている場合

     受給者について、単に「相続人」となっている場合は、一見、相続財産となりそうです。しかし、裁判所は、この場合でも「相続人」にあたる者を保険の受取人と指定しており、「相続人」が固有の権利を取得するとして、相続財産にはならないとしています。

              受取人である相続人の間でどのように生命保険金を分配するかは、保険契約の内容として決まっていればそれによります。決まっていなければ、判例上、民法の法定相続分の割合によることとなっています。

イ 特に何も指定されていない場合

    特に何も指定がない場合、今度こそ相続財産となるのでしょうか。しかしながら、ここでも判例は、保険約款に、被保険者の相続人に支払うという旨が記載されている場合は、やはり相続人が固有の権利を取得するとして、相続財産に含まれないとしています。

   約款にも何も記載がない場合に初めて、相続財産となることとなります。

 

3 他の相続人からの異議

 このように、相続財産にならないとすると、特定の相続人だけに生命保険金が支払われることで、著しい不公平が生ずるおそれがあります。

 このような場合には、保険金を受け取った相続人を「特別受益者」として扱うことがあります。ただし、かなり限定的であり、判例では、不公平が著しいものであると評価すべき特段の事情がある場合に限って特別受益者として扱う余地を認めています。例えば、生命保険金の額が相続財産総額とほぼ同額とかなり高額である上に、受取人が特に負担を負うこともない場合は、著しい不公平といえるでしょう。

 

4 生命保険金への課税

 相続財産とならない生命保険金についても、相続税法上は「みなし相続財産」として取り扱われ,相続税の課税対象となります(なお、被保険者である被相続人が保険料を負担していた場合に限ります。保険受取人である相続人が保険料を負担している場合は、その相続人に対する所得税の問題となります。)。ただし、相続人一人について500万円までが非課税枠となります。

具体例として、相続人となる配偶者と子2人いる場合に、「相続人」を受取人とする生命保険金1,800万円が支払われ、これが法定相続分に従って、配偶者に900万円、子にそれぞれ450万円が支払われた場合を考えてみます。この場合、上記数式に当てはめると、配偶者は250万円、子はそれぞれ75万円が課税対象となります。

 

【コラム】中小企業の事業承継と遺留分に関する民法の特例

2015-11-19

1 中小企業の円滑な事業承継は喫緊の課題である

東京商工リサーチの2014年の調査(http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20141002_01.html)によれば、現在、企業の代表者の平均年齢は60.6歳であると言われており、中小企業経営者の高齢化は深刻な状況となっています。これは、現経営者による後継者への事業の承継がスムーズに進んでいないことを示唆するものです。

戦後日本の経済・産業を支えてきた中小企業の代替わりがうまく行かないことによって、そのような中小企業が途絶えてしまうと、長年蓄積された高度な技術やノウハウが散逸するおそれがあり、国内の経済・産業全体にとって大きなマイナスになりかねません。

そこで、このような事態に陥らないよう、高齢となった多くの中小企業の経営者による円滑な事業承継を実現・推進していくことが我が国経済産業界における喫緊の課題であると考えられます。

 

2 中小企業経営承継円滑化法の成立

 平成20年5月9日、中小企業の円滑な事業承継を支援することを目的とした「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(中小企業経営承継円滑化法)が成立しました。この法律では、3つの大きな柱として、①遺留分に関する民法の特例、②資金の供給等の金融支援制度、③相続税・贈与税の納税猶予の特例が定められていますが、今回は、①遺留分に関する民法の特例についてご紹介します。

 

3 遺留分に関する民法特例

  民法上の遺留分制度の詳細については、遺留分と遺留分減殺請求において詳しく説明していますのでそちらをご参照ください。

(1)制度の背景

ア 財産の分散防止

現経営者の推定相続人の一人(例えば、現経営者の長男)に事業を承継させたいという場合に、相続によって他の推定相続人に自社株式や事業用資産が分散する事態はなるべく避けなければなりません。しかし、生前贈与や遺言によって後継者(長男)に自社株式や事業用資産のすべてを集中させようとしても、他の相続人の遺留分を侵害することとなってしまう場合は、事業承継がうまくいかないことがあります。民法上は、遺留分の放棄という制度もありますが、他の相続人にとってメリットがなく、かつ、放棄する相続人自らがわざわざ相続開始前に家庭裁判所で申立てをして個別に許可を受けなければならないといった手続負担もあったことから、現実には非常に困難なもので、ほとんど利用されていませんでした。

イ 後継者と後継者以外の他の相続人との間で生じる不平等問題

また、現経営者から後継者に株式が生前贈与されていた場合、後継者の努力で株価が上がれば上がるほど、遺留分の対象となる基礎財産も相続開始時を基準に評価されるため、他の相続人の遺留分が増大する結果となってしまうという問題もありました。

(2)特例の内容

そこで、中小企業経営承継円滑化法は、このような遺留分に関する民法の特例として、経営者の推定相続人全員の合意により、経営者から推定相続人の一人である後継者に生前贈与された自社株式や事業用資産を遺留分算定の基礎財産から除外する「除外合意」と、遺留分算定の基礎財産に算入する際の価額を固定する「固定合意」を設けました。ご注意いただきたいのは、あくまでも生前贈与を念頭に置いた制度であるということです。事前に問題解決を図っておくことで、相続開始後の紛争を未然に防ぐことを目的としています。

ア 除外合意

除外合意とは、後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式その他一定の財産について、現経営者の推定相続人全員の合意によって、遺留分算定の基礎財産から除外することができるという制度です。

このように、遺留分減殺の対象から外すことで、遺留分の放棄をしてもらう必要がなくなり、自社株式等が相続により分散することを防ぐことが可能になります。

イ 固定合意

固定合意とは、後継者が現経営者から贈与によって取得した自社株式について、現経営者の推定相続人全員の合意によって、遺留分算定の基礎財産に算入する価額を合意時点の価額に固定できるという制度です。

この合意によって、遺留分算定の基礎財産に算入にあたり、この株式価額は合意のした時点の価額に固定されるので、後継者は、経営努力による株式の価値上昇のせいで遺留分が増大してしまうというマイナス面を考えなくてもよくなり、経営に専念できます。

なお、この合意にあたっての株式の価額は、適正さを担保するため、弁護士などの証明が必要となっています。

 

4 終わりに

  今回は、中小企業経営承継円滑化法における遺留分に関する民法の特例についてご説明しました。事業承継は法務・税務・会計など様々な要素が関係してくる複雑かつ煩雑なものです。制度をうまく活用して円滑な承継を進めるためにも、専門家に一度ご相談いただくことをおすすめします。

 

【コラム】SNSの扱いについて

2015-11-04

1 Facebook追悼アカウント-亡くなった後のことを今から考える

先日、代表的なSNSの一つであるFacebookにおいて、利用者が生前に追悼アカウントを作成することが出来るようになりました。追悼アカウントを作成すると、利用者が亡くなった後も「追悼」との表示の下、Facebookにアカウントが残されることになります。これにより、利用者が亡くなった後も、友達や家族が集い、その人の思い出をシェアする出来るサービスとなります。

このように自分が亡くなった後、残される人々に対して、自分の意志を伝える方法としては、従来から遺言が利用されてきました。

もっとも、遺言というと、ついつい遺産をどのように配分するかを決めるだけでしょ?と思いがちです。しかしながら、遺言に記載できる事項は、遺産の配分だけに限られる訳ではありません。遺産以外にも、例えば、自分の死後の葬儀の方法や献体・臓器提供の希望、ペットの世話を誰に見て欲しいものか等というものまで、さまざまな内容を、「付言事項」として記載することが出来ます。今回は、この付言事項の注意点等についてお話ししたいと思います。

 

2 付言事項って何?

付言事項には、相続人に対する法的な拘束力はありません。しかしながら、遺言者の最後の遺志を示すものであるため、相続人が尊重する可能性は一般に高いといえます。

また、付言事項には、遺産の配分を決めた理由を記載することが出来ますが、これを述べることにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる場合もあります。例えば、遺留分を侵害する遺言書を残した場合に、配分について十分な説明がなければ不利に扱われた相続人は不満に思うことがほとんどでしょうが、その理由をきちんと説明すれば納得してくれる可能性もあります。

付言事項を残すことにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる一方で、内容によってはかえって不利に扱われる相続人の不満を増す結果に終わることも考えられます。そのため、付言事項を残す際には、遺産の配分と同じように慎重に内容を精査する必要があります。

また、付言事項を記載した遺言書を作成していたとしても、自筆証書遺言(遺言内容、作成日付、氏名を遺言者が自筆し、押印した通常の遺言書のことです。)だと、相続人が発見できないこと等の理由により、結局実現できないケースも考えられます。そこで、遺言を公正証書で作成し(公正証書遺言といいます。)、さらに遺言施行者を指定しておくことで、速やかに付言事項を含め遺言書の内容を実現することができるようにしておくなどの工夫が必要です。

ここまで説明してきましたとおり、付言事項には法的拘束力はありませんが、最後の遺志を示すものとして重要です。そして、その書き方には十分な配慮が必要となります。

現在、遺言の作成をお考えの方は、弁護士が内容を確認させていただき、アドバイスすることもできますので、財産の分与以外に残されることになる方々へ言い残しておきたい事項がある場合には、是非一度弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】経営者の相続・事業承継

2015-10-29

同族経営の会社では、次の世代へのスムーズな事業承継に向けて、計画的に準備をしておいた方がよい事項があります。

 

1.株式について

相続に当たって株式を承継させる相手方やその割合の決定は重要です。もし、自分が保有している株式を承継させる相手方や割合を既に決めているのであれば、遺言書を作成してその旨を予め定めておくことが望ましいでしょう。もっとも、承継株式の評価額如何によっては注意が必要です。例えば、遺言によって自分の長子に保有株式の全部を承継させたところ、他の相続人の遺留分(遺言・相続業務メニュー「遺留分と遺留分減殺請求」参照)を侵害する結果になるようなケースです。この場合、せっかく、経営権の円滑な承継を企図して遺言書を作成したのに、遺留分をめぐって相続人間に紛争が発生してしまう可能性もあるわけです。

この点に関連して近時注目されているのが「経営承継円滑化法」です。この制度は、株式を後継者(推定相続人に限ります。)に承継させるに当たって、推定相続人全員の合意により、当該株式を遺留分算定の基礎財産から除外し(除外合意)、又は、遺留分算定額を予め固定する(固定合意)というものです。なお、当該合意について、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得る必要があります。

ところで、社歴の長い会社では、数世代の相続を経るうちに株式の保有者が拡散してしまうことがあります。株主が拡散すれば、経営に対して様々な介入を受けるリスクが発生します。相続による株式の拡散を防止する見地から、会社法は、会社が相続人等に対して承継した株式を売り渡すよう請求できる制度を設けています。このような相続を見据えた会社の定款設計も重要なポイントです。

 

2.取引先について

中小企業では、経営者の人的信頼関係に基づいて商取引が継続している場合があります。長年の取引先であるからといって安心していても、世代交代を機に取引が終了してしまうことも多々あります。こうした問題は、いきなり後継者にバトンタッチするのではなく、一定期間、新旧共同して経営に関与することにより対処するしかありませんが、法的にも留意すべき点があります。いわゆる「チェンジ・オブ・コントロール条項」です。これは、契約の一方当事者の経営陣や支配株主に変更があった場合に、反対当事者が当該契約を解除したり、変更したりすることができるという条項です。現在、効力のある契約書中にこのような条項がないかを確認し、必要に応じて、相続・遺贈による株式の承継を条項から除外するなどの措置を検討することも重要です。

 

3.金融機関について

金融機関との関係においては、融資契約における保証の問題があります。経営者個人が会社の連帯保証人になっているケースは非常に多くあります。近時公表された「経営者保証に関するガイドライン」では、金融機関に対し、事業承継に伴う後継者との保証契約の締結や前経営者との保証契約の解除について、その必要性等の検討を求めています。事業承継をきっかけに、会社の財務基盤やガバナンスを見直すことで、金融機関と保証契約について協議することも可能になるといえるでしょう。

 

このように、事業を承継する場合には様々な課題がありますが、会社の事業構造を見直す絶好の機会であるともいえます。専門家を交えてぜひ事業承継の戦略を練ってください。

 

【コラム】預貯金の相続

2015-10-28

1、預貯金のご相続

 遺産分割と聞くと、相続人の間で財産の分け方を話し合って、最後に合意書(遺産分割協議書と言います。)を作成することをイメージされる方も多いかと思います。遺産分割とは、亡くなった方(被相続人と言います。)の財産を相続人の間で分割する手続きを言い、相続人の間での話し合いで作成することも出来ますし、それではまとまらない場合には、調停や審判という裁判所を利用した手続きを利用することもできます。

相続の対象となる財産には、土地・建物等の不動産、銀行等の預貯金、宝石や着物等の動産等があります。その中でも、預貯金は、他の財産と異なる特殊な取扱いがされています。

今回は、遺産分割での預貯金の取扱いについてご紹介します。

 

2、預貯金の取扱い

(1)最高裁判所の考え方

 最高裁判所は、預貯金は、相続人間で話合いを行わなくても被相続人が亡くなった場合には当然に分割され、法律で定まった相続分に応じて相続人となる者それぞれに帰属し、それぞれが銀行に対して払戻しを求めることができるという判断を示しています。

 つまり、被相続人Aに子B・Cがいる場合、Aが亡くなると、B・Cが相続人となり、それぞれAの財産について2分の1ずつ相続分を有することになります。Aの自宅の土地・建物については、B・C間でその分割の割合について話し合うことになります。他方で、A名義の預貯金については、B・Cは、銀行に対して、ただちにそれぞれ預貯金の2分の1ずつ払戻しを求めることができることになります。

(2)実務上の取扱い

 以上で説明した最高裁判所の考え方に反するようですが、実際のところ、銀行等の金融機関は、後日になって相続人間のトラブルに巻き込まれるリスクを恐れて、相続人全員の署名押印のある遺産分割協議書等がなければ、預貯金の払戻しに応じません。

 銀行等が預貯金の払戻しに応じない場合には、相続人は、預貯金の支払いを求めるために、銀行に対して払戻しを求める訴訟を提起することが必要です。

 また、最高裁判所の考え方からすると、預貯金は、遺産分割手続きを経ずに各相続人に相続されることになりますので、遺産分割調停・審判においてもその対象にならないはずです。

 しかし、実際のところ、裁判所での遺産分割に関する話合いである遺産分割調停では、預貯金を遺産分割の対象としないという相続人からの申し出がない限り、そのまま分割対象として手続きを進められています。また、遺産分割に関する審判官の判断である遺産分割審判においても、相続人間において、預貯金を分割対象にする旨の合意があれば、その合意に従って審理・審判がなされます。

 

3、最後に

 これまでご説明してきましたとおり、預貯金の遺産分割における取扱いは少し特殊です。この特殊性に応じて、円滑で速やかなご相続を進める上で適切な手続きを選択するためには、遺産分割全体を見通した専門的な判断が必要となります。

 もし、預貯金に限らず、ご相続に関するお困りごとがありましたら、是非一度弁護士にご相談ください。ご相談いただいた方が、速やかにご相続手続きを進められるよう、弁護士が全力でサポートいたします。

以上

 

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