Archive for the ‘相続債務’ Category

【コラム】相続により負う債務への対応

2016-12-26

 1 「借金」も相続されます。

よくテレビドラマでは「お父様が亡くなったのは悲しいけれども、その遺産は5億円。母も既に亡くなっているし、私は1人っ子だからこの財産は全て私のもの。」などの光景が流れます。では遺産がなくて、逆に3億円の「借金」があるとすると、どうなるのでしょうか。相続により「借金」はなくなるのでしょうか。

じつは、「借金」(金銭債務)は、相続放棄や限定承認などをしない限り、相続することになります。つまり、なんの手当てもしないと、相続人は「借金」を相続することになってしまいます。

 

2 原則:各相続人の債務額は相続分に従って負います

相続人は、相続分(法定相続分又は遺言などで指定された相続分)に応じて「借金」(金銭債務)を負うことになります。言い換えると、お金を貸している人は、相続人に対して、当然に「貸したお金を支払え」と請求することができることになります。

なお、保証債務など契約の内容によって、相続人には債務を負わせないとする契約ものもありますので、すぐに応じるのではなく、まずはよく契約書を確認することが重要です。

 

3 ~事例を通して~

【事案1】Aさんには、妻と子(40歳)がいます。Aさんは友人Bから1000万円の借金をしていたとします。Aさんが亡くなった場合、相続人は妻と子の2人です。遺言もないことから、相続分は民法に従い、それぞれ2分の1ずつとなります(民法900条1号)。

【結論】この場合、お金を貸している友人Bは、相続人である妻と子に対して、それぞれ500万円ずつ支払うように請求することができます。

 

では次の場合はどうでしょうか。

【事案2】事案1と同様に、Aさんには、妻と子(40歳)がいます。Aさんは友人Bから1000万円の借金をしていたとします。Aさんは生前、「妻の相続分は4分の3、子の相続分は4分の1とする」という遺言を残していました。債権者Bは、その遺言の存在を知るはずもなく、子に対して、例1と同様に500万円を請求しています。子はこれに応じて払わなければならないのでしょうか。

【結論】現在の最高裁が定めたルールとしては、債権者Bが、法定相続分に従った請求した場合、「借金」を相続した相続人はその請求に応じなければなりません(最判平成21年3月24日)。差額である250万円については、相続人がいったん支払って、あとから他の相続人に自ら取り立てることになります。つまり、請求された人は、回収のリスクを一時的に負わされていることになります。

では仮に、債権者Bが遺言の存在を知っていた場合はどうでしょうか。この場合は、最高裁のルールでは、債権者Bが子の相続分が4分の1であることを承認した場合には、債権者Bは子に250万円をだけ請求することはできます。

 ですので、債権者からは法定相続分を基準として請求がされることになります。 

 

4 相続による債務を負うことの対応方法

相続をきっかけに、突然に「借金」を負う場合の対応方法としては、①相続放棄する、②限定承認をする、という2つの手段が考えられます。

相続放棄とは、はじめから相続人ではなかったことにする制度です(民法939条)。したがって、「借金」を負うこともなく、請求されても一切払う必要はありません。しかし、相続放棄は、相続開始を知った時から3か月以内に家庭裁判所に申述しなければなりませんのでご注意ください。

 また、限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナス財産も負担するものです。これには相続人に全員の同意が必要となり、1人でも反対すれば使えません。

 

 以上のとおり、相続によってある日突然、債務超過に陥ることもあり得えます。相続が発生した場合には、財産の調査を含めすぐにご相談ください。

【コラム】遺産分割の解除

2015-12-17

1、遺産分割協議の解除に関するご相談

「父の遺産分割協議について相談させて下さい。父は今年の3月に亡くなり、母も早くに他界していましたので、私と兄の二人だけが相続人になりました。父の財産は、自宅建物とその敷地、預金、株式などで3億円ほどありましたが、そのうち都心の一等地にある自宅建物とその敷地が約2億円と大部分を占めていました。都心の不動産が値上がりを続けていることもあり、兄はどうしても自宅建物とその敷地を欲しがっていました。私は、兄に自宅建物とその敷地を譲る代わりにその他の財産を相続することとし、さらに2000万円ほどの代償金を支払ってもらうことになりました。そして、その旨の遺産分割協議書を作成し、それぞれが署名・押印しました。ところが、兄は、相続税を払ってお金がないなどと言って、約束した代償金を払おうとしません。作成した遺産分割協議書はなかったことにして、改めて遺産分割協議をすることはできないのでしょうか。」

相続に関して、遺産分割協議をやり直すことができないかとご相談いただくことがあります。

今回は、遺産分割の手続きとそのやり直しについてご説明します。

 

2、遺産分割の手続きとそのやり直し

⑴遺産分割の手続き

亡くなられた方(「被相続人」といいます。)について、相続人が二人以上いる場合、遺産は相続人間の共有になり、当然に遺産を構成する各財産が当然にどの相続人に帰属するか定まるものではありません。

最終的な遺産の相続人への帰属は、遺産の分割を行うことによって決まります。

遺産の分割は、原則として相続人間の協議によって行われます。通常、相続人間の協議がまとまった場合は、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議ができないときは、家庭裁判所に対し、遺産分割調停の申立てを行うことになります。

⑵遺産分割のやり直し

売買契約などの一般の契約であれば、例えば売買契約で買主が売買代金を支払わない場合には、売主は、買主の代金支払債務の債務不履行を理由として契約を解除することができます。遺産分割についても、同様に相続人が遺産分割協議に際して定めた債務を履行しない場合に、債権者である相続人がこの遺産分割協議を解除することができるか問題になります。遺産分割には、前述のとおり、遺産分割協議と遺産分割調停の方法がありますので、それぞれの場合についてご説明します。

①遺産分割協議の債務不履行解除の可否

遺産分割協議について、最高裁判所は、相続人の一人が遺産分割協議の際に負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は債務不履行を理由として解除することができないと判断しています。なぜなら、一方的な意思表示による解除を認めると法律関係が複雑になり、法的安定性が著しく害されてしまうことになるからです。

②遺産分割協議の合意解除の可否

なお、債務不履行に基づく解除とは異なり、遺産分割協議を相続人全員の合意の下で解除することは、法的安定性を害するおそれは少ないので許されると考えられています。

③遺産分割調停の債務不履行解除の可否

遺産分割調停が成立し、その調停調書の中で定められた代償金の支払いについて、債務者である相続人が債務を履行しないときに、債権者である相続人が債務不履行に基づき解除を主張できるか問題となった裁判例があります。この裁判例は、調停は審判と同一の効果を有するため、新たな審判または調停によらなければその分割の効果を消滅させることができず、債権者である相続人は調停における合意を債務不履行に基づき解除することができないと判断しました。

 

3、最後に

これまでご説明してきましたとおり、今回ご相談いただいた遺産分割協議をやり直すことは、相談者のお兄様の同意がなければ難しいです。したがって、お兄様に対し、代償金について訴訟等を提起して請求することを材料としながら、遺産分割協議のやり直しについて交渉していくことになるかと思います。

遺産分割協議に基づく債務の履行状況についてお悩みがありましたら、相続の専門家である弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】遺言控除

2015-12-09

1 今注目を集める「遺言控除」

自民党の家族の絆を守る特命委員会において、平成29年度を目途に、「遺言控除」制度の導入が検討されていることが報道されました(日本経済新聞平成27年7月9日朝刊)。

この遺言控除制度とは、有効な遺言による相続がなされた場合に、相続税の基礎控除額を上乗せするというものです。

平成27年1月1日より施行されている改正相続税制では、遺産に係る基礎控除が従前よりも引き下げられました。具体的には、これまでは、基礎控除額を5000万円+1000万円×法定相続人の数として算出していたのが、改正相続税制では、基礎控除額を3000万円+600万円×法定相続人の数として算出されることになりました。たとえば、相続人が配偶者と子2人であれば、相続税の基礎控除額は、従前は8000万円であったのが、4800万円に減縮されたことになります。

さらに、改正相続税制では、2億円超の金額に対する課税率もあがりました。

このように、相続の際の税負担は相当程度重くなっています。そのような中で、この「遺言控除」に関心をお持ちの方も多いかと思います。そこで、今回はこの「遺言控除」について、現時点で判明している部分でご説明をします。

 

2 制度の概要と議論状況

⑴ 制度の概要

遺言控除制度とは、相続税の基礎控除に加え、有効な遺言による相続の場合に、数百万円程度の基礎控除額を上積みするというものです。

仮に、遺言控除の額が仮に500万円であるとすると、有効な遺言による相続を行った場合には、税率(被相続人の財産全体から控除額を差し引いた額を法定相続分で案分して定まる額に応じて最低10%から最高55%の間で定まります。)に応じて、全ての相続人で合計50万円から275万円の相続税を支払わずにすむことになります。

⑵ 制度の目的と留意点

家族の絆を守る特命委員会では、この新しい控除を導入する目的として、遺言を広く普及させることにより、遺産相続を巡る紛争を防止し、若い世代への資産移転をスムーズにすることなどを挙げています。

たしかに、遺言を作成しないまま亡くなられた方の相続に関して、しばしば紛争が生じることがあります。遺言は、相続人の間で無用な紛争を発生させにくくする効果があります。このこと自体は、すでに広く認知されているでしょう。

しかしながら、遺言が作成されていた場合でも、遺言の内容や遺言が作られた時期や状況によっては、遺言の有効性を巡って新たに紛争が生じることはあります。

たとえば、認知症のために十分な判断能力を備えていない方に対し、その方の世話をしていた方が自分に有利な遺言を作成させた場合、その遺言の有効性について相続人間で問題となることがあります。これは、一般に信頼性が高く認められる公正証書遺言を作成した場合でも問題になることがあります。

あるいは、遺言を作成した場合であっても、一部の相続人には遺留分という固有の権利が認められています。遺言が作成された後になって、相続人間でこの遺留分の行使を巡った紛争になることもあります。

このような場合には、若い世代への資産移転をスムーズにするという目的を達成することは困難です。

したがって、遺言控除を利用する目的で遺言を作成する場合でも、その有効性や遺留分にも配慮し、慎重に作成する必要があります。

 

3 遺言の作成に弁護士が携わるメリット

遺産相続の専門家である弁護士に相談をすれば、遺言の内容がご希望に沿うようにすることはもちろん、有効性についても疑義が生じないようにさまざまなサポートをいたします。

遺言については様々なサービスが提供されていますが、特に、弊所では映像遺言サービスを提供しています。これは、遺言の内容や、あるいは遺言にとどまらず相続人に伝えたいことを、被相続人の方自らに話してもらい、その様子を映像にして遺言とともに残すサービスです。映像遺言を残すことで、相続人となる方に自分の意思に基づく遺言であることを確実にお伝えするとともに、家族に残したい言葉をいつまでも保管いたします。

映像(遺言)サービスのご利用に限らず、遺言や相続に関してお悩みがある場合は是非弊所の弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】遺言の撤回

2015-12-01

1 遺言の撤回に関するご相談

「私には、息子が二人います。同居していた長男に体調を崩した際の面倒をみてもらおうと、自宅の土地・建物を相続させる旨の公正証書遺言を作成しました。しかし、長男の浪費癖が発覚して私が注意したところ、長男との仲が険悪になってしまって長男が自宅を飛び出してしまいました。長男が出て行った後、次男が私の面倒を見に帰ってきて熱心に面倒を見てくれたので、次男への感謝の気持ちを込めて自宅の土地・建物を相続させたいと思っています。既に公正証書遺言を作成してしまっていますが、この遺言の内容を変更することはできるのでしょうか。」

遺言に関して、このような遺言の内容を変更したいというご相談をいただくことがあります。遺言の内容を変更したり、無かったことにすることを、遺言の「撤回」と言います。

今回は、遺言の撤回についてご説明させていただきます。

 

2 遺言の撤回

遺言の撤回は、遺言者が自由に行うことができます。そして、遺言を撤回する方法には、①新しく遺言をする方法、②遺言書を破棄したり、遺言により相続させるものを処分したりする方法の2つがあります。

まず、①の方法についてです。

この方法のうちの一つは、前に行った遺言を撤回する旨の遺言をするという方法です。例えば、「遺言者は、平成○年○月○日付で作成した公正証書遺言を全部撤回する。」というような文言の遺言を作成することが考えられます。

もう一つは、後から前に行った遺言と両立しない内容の遺言をする方法です。今回のご相談で考えると、次男へ自宅の土地・建物を相続させる、という遺言をすることになります。これにより、前に行った遺言は撤回されたものとみなされます。

そのため、日付の新しい遺言と日付の古い遺言では日付の新しい遺言が優先されることになりますが、日付の古い遺言の全部が無効になるわけではありません。あくまで、日付の新しい遺言と内容が食い違う部分に限り無効となります。

なお、日付の古い遺言が公正証書遺言である場合でも、新しい遺言は公正証書遺言である必要はなく、自筆証書遺言で行うこともできます。

次に、②の方法についてです。

わざと遺言書を破棄したり、遺言によって相続させるものを破棄・損壊したりすることにより、遺言を撤回したものとみなされます。ただし、公正証書遺言の場合は、公証役場に原本が保管されていますので、その正本や謄本を破棄するだけでは撤回することはできませんので注意が必要です。相続させるものを破棄・損壊するとは、例えば、遺言によって相続させようとしていた壺を破壊してしまうようなことを指します。相続させる対象が消滅してしまえば、その部分に対応する遺言の意味もなくなってしまうので、遺言が撤回されたことになるということです。

 

3 最後に

以上ご説明してきましたとおり、今回のご相談の場合には、次男に自宅の土地・建物を相続させる旨の遺言をすることで、長男に自宅の土地・建物を相続させる旨の遺言を撤回することができます。

前にした遺言の撤回以外にも、前にした遺言からの財産状況に応じた変更や遺言執行者を選任しておきたい、付言事項を追記したい等のご希望がある場合には対応させていただきますので、是非一度弁護士にご相談ください。

以上

 

【コラム】SNSの扱いについて

2015-11-04

1 Facebook追悼アカウント-亡くなった後のことを今から考える

先日、代表的なSNSの一つであるFacebookにおいて、利用者が生前に追悼アカウントを作成することが出来るようになりました。追悼アカウントを作成すると、利用者が亡くなった後も「追悼」との表示の下、Facebookにアカウントが残されることになります。これにより、利用者が亡くなった後も、友達や家族が集い、その人の思い出をシェアする出来るサービスとなります。

このように自分が亡くなった後、残される人々に対して、自分の意志を伝える方法としては、従来から遺言が利用されてきました。

もっとも、遺言というと、ついつい遺産をどのように配分するかを決めるだけでしょ?と思いがちです。しかしながら、遺言に記載できる事項は、遺産の配分だけに限られる訳ではありません。遺産以外にも、例えば、自分の死後の葬儀の方法や献体・臓器提供の希望、ペットの世話を誰に見て欲しいものか等というものまで、さまざまな内容を、「付言事項」として記載することが出来ます。今回は、この付言事項の注意点等についてお話ししたいと思います。

 

2 付言事項って何?

付言事項には、相続人に対する法的な拘束力はありません。しかしながら、遺言者の最後の遺志を示すものであるため、相続人が尊重する可能性は一般に高いといえます。

また、付言事項には、遺産の配分を決めた理由を記載することが出来ますが、これを述べることにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる場合もあります。例えば、遺留分を侵害する遺言書を残した場合に、配分について十分な説明がなければ不利に扱われた相続人は不満に思うことがほとんどでしょうが、その理由をきちんと説明すれば納得してくれる可能性もあります。

付言事項を残すことにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる一方で、内容によってはかえって不利に扱われる相続人の不満を増す結果に終わることも考えられます。そのため、付言事項を残す際には、遺産の配分と同じように慎重に内容を精査する必要があります。

また、付言事項を記載した遺言書を作成していたとしても、自筆証書遺言(遺言内容、作成日付、氏名を遺言者が自筆し、押印した通常の遺言書のことです。)だと、相続人が発見できないこと等の理由により、結局実現できないケースも考えられます。そこで、遺言を公正証書で作成し(公正証書遺言といいます。)、さらに遺言施行者を指定しておくことで、速やかに付言事項を含め遺言書の内容を実現することができるようにしておくなどの工夫が必要です。

ここまで説明してきましたとおり、付言事項には法的拘束力はありませんが、最後の遺志を示すものとして重要です。そして、その書き方には十分な配慮が必要となります。

現在、遺言の作成をお考えの方は、弁護士が内容を確認させていただき、アドバイスすることもできますので、財産の分与以外に残されることになる方々へ言い残しておきたい事項がある場合には、是非一度弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】経営者の相続・事業承継

2015-10-29

同族経営の会社では、次の世代へのスムーズな事業承継に向けて、計画的に準備をしておいた方がよい事項があります。

 

1.株式について

相続に当たって株式を承継させる相手方やその割合の決定は重要です。もし、自分が保有している株式を承継させる相手方や割合を既に決めているのであれば、遺言書を作成してその旨を予め定めておくことが望ましいでしょう。もっとも、承継株式の評価額如何によっては注意が必要です。例えば、遺言によって自分の長子に保有株式の全部を承継させたところ、他の相続人の遺留分(遺言・相続業務メニュー「遺留分と遺留分減殺請求」参照)を侵害する結果になるようなケースです。この場合、せっかく、経営権の円滑な承継を企図して遺言書を作成したのに、遺留分をめぐって相続人間に紛争が発生してしまう可能性もあるわけです。

この点に関連して近時注目されているのが「経営承継円滑化法」です。この制度は、株式を後継者(推定相続人に限ります。)に承継させるに当たって、推定相続人全員の合意により、当該株式を遺留分算定の基礎財産から除外し(除外合意)、又は、遺留分算定額を予め固定する(固定合意)というものです。なお、当該合意について、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得る必要があります。

ところで、社歴の長い会社では、数世代の相続を経るうちに株式の保有者が拡散してしまうことがあります。株主が拡散すれば、経営に対して様々な介入を受けるリスクが発生します。相続による株式の拡散を防止する見地から、会社法は、会社が相続人等に対して承継した株式を売り渡すよう請求できる制度を設けています。このような相続を見据えた会社の定款設計も重要なポイントです。

 

2.取引先について

中小企業では、経営者の人的信頼関係に基づいて商取引が継続している場合があります。長年の取引先であるからといって安心していても、世代交代を機に取引が終了してしまうことも多々あります。こうした問題は、いきなり後継者にバトンタッチするのではなく、一定期間、新旧共同して経営に関与することにより対処するしかありませんが、法的にも留意すべき点があります。いわゆる「チェンジ・オブ・コントロール条項」です。これは、契約の一方当事者の経営陣や支配株主に変更があった場合に、反対当事者が当該契約を解除したり、変更したりすることができるという条項です。現在、効力のある契約書中にこのような条項がないかを確認し、必要に応じて、相続・遺贈による株式の承継を条項から除外するなどの措置を検討することも重要です。

 

3.金融機関について

金融機関との関係においては、融資契約における保証の問題があります。経営者個人が会社の連帯保証人になっているケースは非常に多くあります。近時公表された「経営者保証に関するガイドライン」では、金融機関に対し、事業承継に伴う後継者との保証契約の締結や前経営者との保証契約の解除について、その必要性等の検討を求めています。事業承継をきっかけに、会社の財務基盤やガバナンスを見直すことで、金融機関と保証契約について協議することも可能になるといえるでしょう。

 

このように、事業を承継する場合には様々な課題がありますが、会社の事業構造を見直す絶好の機会であるともいえます。専門家を交えてぜひ事業承継の戦略を練ってください。

 

【コラム】死亡退職金の相続

2015-10-19

1 退職金とは

  退職金は、在職中の功績をたたえて退職時に勤めていた本人が受け取るのが通常です。

しかし、会社在職中に本人が亡くなってしまった場合には、本人は退職金を受け取ることができません。定年間近で本人がお亡くなりになってしまった場合と、定年直後にお亡くなりになってしまった場合で取り扱いが異なってしまうのでしょうか。

 

2 死亡退職金とは

実は、本人が会社在職中に亡くなってしまった場合でも、ご家族に退職金が遺族に支給される場合があります。これが、死亡退職金です。

また、家族や兄弟で経営している会社であれば、定年のない役員が亡くなるまで在籍し、退職金が死亡退職金となるような場合もあります。

では、どういった場合に死亡退職金が支給されるのでしょうか。

死亡退職金が遺族に対して支給されるには、まず、故人が退職金を受け取れる地位になければなりません。会社の就業規則(会社で働く際のルールを定めたもの)には、一般的に、「勤続◯◯年以上の労働者が退職又は解雇された時は、退職金を支給する」などと書いてあります。さらに、一般的な就業規則には、「退職金は、支給事由が生じた日から、○○ヶ月以内に、退職した者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う」などと記載されています。この、「死亡による退職の場合はその遺族」という記載が、死亡退職金が遺族に支給される根拠となります。

 

3 死亡退職金が相続財産となるかどうか

(1)死亡退職金を誰が受給するか決まっている場合

   就業規則などで、あらかじめ死亡退職金を誰が受給するかが決まっている場合を考えてみます。この死亡退職金は、相続財産には含まれません。あくまで指定された受取人個人の財産となるのです。したがって、決まっている受給者が原則的には全てもらうことができますし、相続放棄をしても受給できます。国家公務員の死亡退職金も、相続財産になりません。地方公務員も多くは同じ扱いです。

そうすると、相続で問題は生じないようにも思えますが、実はここに落とし穴があります。

お亡くなりになった方の相続人が複数いて、そのうちの1人に対して、1億円の死亡退職金が支払われた場合を考えてみましょう。この場合、お亡くなりになった方の自宅、預貯金などの相続財産が全体で5000万円だったとすると、5000万円の相続財産を相続人で分割すると、1億円の死亡退職金を受け取った人のみが実際には多くの財産を得てしまうこととなります。これは不公平だということで、法律では、1億円の死亡退職金を受け取った人には特別受益があるとして、5000万円の相続財産を分割する際、取り分を調整するということが行われます。

(2)死亡退職金を誰が受給するか決まっていない場合

   この場合は、退職金には、給与の後払的性格があるとして、未払賃金と同様に考え、相続財産となると考えられています。

ただし、(1)のような形で就業規則を作成している会社が一般的です。勤め先の就業規則を確認しておくことが、必要になります。

 

 

4 死亡退職金への課税

  相続財産とならない死亡退職金でも、相続税の対象となる場合がありますので注意が必要です。

  法律上、退職手当金等を遺族が受け取る場合で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続財産とみなされて相続税の対象となります。受け取る人が相続人であれば相続財産として、相続人でない場合は遺贈によって取得したものとみなされる扱いとなっています。

【コラム】自分が亡くなった後のペットが心配

2015-09-28

近年の日本においては、ペットを家族の一員として捉える人も増えてきました。しかし、自分が亡くなった後、可愛がっていたペットはどうなるのでしょうか。飼い主がいなくなった場合、保健所に連れて行かれて殺処分されてしまうかもしれません。それを避けるためには、ペットをどうしてほしいかについて、遺言を作成することが有用です。

遺言というと、典型的には、法定相続分とは異なる相続方法を定めるケースが想定されます。数人いる子のうち、疎遠だった者には少なく、一緒に住んでいた者には多く財産を分けたい場合。自宅マンションを一緒に暮らしてきた内縁の妻に渡したい場合。たとえば、このような希望を叶えるために、遺言は有効です。

しかし、遺言の内容はこれらに限りません。自分が亡くなった後、自分の所有した財産をどうするかについても指定ができます。

法律上、ペットは飼い主の財産となります。そこで、ペットを飼っていた場合には、自分が亡くなった後ペットをどうするのかについて、遺言で指定することが可能です。たとえば、「ペットの里親を探すボランティア団体等に引き渡す」と、ペットの行く末を遺言に定めることもできるのです。ただ、注意をしなければいけないのは、遺言で財産を受ける人は、特定の財産の遺贈を拒否することができるという点です。せっかく遺言を残しても、遺贈を受ける人がペットの受入れを拒否しては意味がありません。予め、ペットを迎え入れてくれる人の了解を得ておく必要があります。

ペットを受け入れてもらうために、負担付遺贈をすることも有益です。負担付遺贈というのは、財産をおくる代わりに何らかの負担をしてもらうという方法です。ペットを受け入れてもらう代わりに何らかの財産を残すことにすれば、受入れ側も約束違反に問われないよう、しっかりと面倒を見てくれるはずです。

遺言を作成する際には、併せて、遺言執行者を指定することができます。遺言執行者とは、遺言を作成した人が亡くなった後、その遺言の内容を執行する役割の人です。上記のように、ペットをボランティア団体等に引き渡す旨が遺言に定められていた場合、遺言執行者はその内容を実現するよう務めてくれます。

遺言執行者は、遺言で指定しなくとも、相続開始後に家庭裁判所で選任してもらうことも可能です。しかし、生前の事情を知っている人を遺言執行者に指定しておくことで、よりスムーズに故人の意思を実現することが可能になります。

一般に、遺言の執行は、諸々の書類を揃えたり、財産を受け取る側と交渉したり等、煩雑な手続きと手間がかかります。遺言執行者は未成年及び破産者以外であれば就任することができますが(民法1009条)、その負担の大きさを考えれば、弁護士などの専門家を予め遺言執行者と指定しておくことで適切な遺言の執行が期待できます。

 

【コラム】相続法に改正の動き(後半)

2015-09-14

1 相続法制検討ワーキングチームの報告書

今年(平成27年)の2月に法務省が設置した相続法制検討ワーキングチームの報告書が公表されました。前回に引き続き、その内容をご紹介します。

 

2 報告書で検討されたテーマ

(1)寄与分制度の見直し

親の財産の維持又は増加について、特別に貢献した場合は、寄与分として相続分の上乗せを求めることができます。

高齢の親への典型的な貢献は介護です。高齢者の介護は、長期間身体的・精神的に大きな負担がかかるものです。また、子が親の介護のために、子ども自身が多額の金銭を支出しているような場合もあります。

しかしながら、介護は、常に親の財産の維持又は増加をもたらすわけではありません。それゆえ、いくら過酷な「介護」をしても、それが「寄与」であるとは認められない場合があるというのが現在の寄与分制度の問題点です。現在の実務の運用では、介護による寄与を認めないというケースは想定しにくいですが、寄与分の制度上はそういったケースもありえます。

この問題点に対して、寄与の形として、財産の維持又は増加だけでなく、介護をしたことを法律に追加するという案が検討されています。現在の寄与分のあいまいな点を、はっきりした形に修正することとなります。

 

(2)遺留分制度の見直し

遺留分制度についての基本的な内容は、弊事務所ホームページの「遺留分と遺留分減殺請求(http://souzoku.legalcommons.jp/iryubun/)」をご参照下さい。

ア 遺留分制度の問題点

この遺留分制度について、現在3つの問題点があると指摘されました。

(ア) 遺留分減殺請求では、寄与分が考慮できないこと

遺産分割にあたっては、相続人の寄与分についても協議した上で、遺産分割の額を決めますが、遺留分減殺請求事件では、寄与分は考慮できないと考えられています。したがって、例えば、夫が死亡して妻と子が相続人となり、遺言で、子に全ての財産を相続させるということになっていた場合、妻は子に対して遺留分減殺請求をすることができます。しかし、遺留分として認められるのは、法定相続分のさらに半分までです。遺産のほとんどが実質的には夫婦の共有の財産であった場合のように、妻が夫の財産形成に多大な貢献をしていたとしてもその寄与は全く考慮されないのが現行の制度です。

(イ) 相続による法律関係を柔軟かつ一度で解決できないこと

現在の法制度では、遺留分減殺請求権が行使されると、相続人は、相続財産を全員で共有することになります。例えば、土地について遺留分減殺請求がされると、その土地は相続人間で共有することになります。そうすると、その分割をするために、あらためて共有物の分割手続を行わなくてはなりません。

また、遺産分割事件は家庭裁判所の手続となるのに対し、遺留分減殺請求事件は、地方裁判所の訴訟手続となるということも、柔軟かつ一回での解決を妨げていると指摘されました。

(ウ) 事業承継の障害となっていること

親が、子のうちの一人に家業を継がせるため、株式や店舗などを相続させる旨の遺言をしたとしても、他の相続人は、遺留分減殺請求権を行使することで、これを邪魔することができます。このことが、円滑な事業承継の妨げになっているのではないかとの指摘がされました。

イ これらの問題への対応策

(ア) 遺留分減殺請求では、寄与分が考慮できないことについて

配偶者の遺留分を、現在の4分の1から、2分の1まで引き上げるという案や、遺留分の算定の基となる財産について、夫婦共有財産と被相続人固有の財産に分けて考えるべきであるという案、子が遺留分を取得できるのは、親が子を扶養するために本来出すべき額に足りていない場合にのみ、その不足分のみ認めるという案が検討されました。

現在のところ、基本的には、配偶者の遺留分を拡大し、子の遺留分を縮小する方向で検討されています。

(イ) 相続による法律関係を柔軟かつ一回的に解決できないことについて

これについては、遺留分減殺請求の行使によって自動的に共有となるのではなく、その後、その分け方を協議の上合意してはじめて減殺請求の効力が生じるとする案、兄弟姉妹以外の相続人の寄与分がある場合は、これも考慮することで一回での解決を図るという案、遺留分減殺請求事件については、遺産分割協議事件とあわせて家庭裁判所でできるようにするという案が提案されました。

今後、遺留分制度と遺産分割制度、寄与分制度などを総合的に1回で解決するための制度づくりが検討されるものと考えられます。

(ウ) 事業承継の障害となっていることについて

(ア)でも触れましたが、財産の性質によって遺留分の範囲を変えるという案で対応できるのではないかと議論されています。

相続財産・遺留分については、今後は、その実質を踏まえて法制度上も細分化されていく可能性があります。

【コラム】相続法に改正の動き(前半)

2015-09-01

1 相続法制検討ワーキングチームの報告書

  今年(平成27年)の2月に、法務省が設置した相続法制検討ワーキングチームの報告書が公表されました。

  このワーキングチームは、嫡出子と非嫡出子に関する、平成25年9月4日の最高裁判決で、民法900条4号が、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていたことは違憲だと判示されたことを受けて、民法を改正する際に、相続法全般について見直しの声があがったことをきっかけに設置されたものです。ちなみに、嫡出子と非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある夫婦の子(嫡出子)と、そうでない男女の間の子(非嫡出子)のことです。

  この報告書で指摘されている事項は、これからの相続法改正に反映される可能性が高いと言えます。本稿では、その内容を大まかに紹介します。

 

2 報告書で検討されたテーマ

  今回検討されたのは、①配偶者の一方が死亡した場合に、もう一方の配偶者の居住権を保護するための措置、②世話をしていた配偶者の貢献を遺産分割に反映するための法定相続分の見直し、③寄与分制度の見直し、④遺留分制度の見直しという大きく分けて4つのテーマです。本稿では、①と②について紹介し、③と④については次のコラムでご紹介いたします。

 

(1)配偶者の一方が死亡した場合に、もう一方の配偶者の居住権を保護するための措置

   2人暮らしの夫婦で夫が亡くなった場合、夫と長い間一緒に暮らしてきた妻は、これまで一緒に住んでいた家に引き続き住みたいと思うことが多いと思います。

   しかしながら、現在の法制度では、必ずしも妻が一緒に住んでいた家に住み続けることができる制度にはなっていません。つまり、夫と一緒に住んでいた家は妻だけでなく子どもも相続することとなるので、子どもとの間でいさかいが起きて妻が住み続けることができなくなってしまう場合があるのです。この妻を守るために、一時的には居住権を認める判例はありますが、これにも限界があります。

   そこで、今回のワーキングチームにおいては、このような配偶者かつ相続人である者が、これまで住んでいた家に住み続けられることを法律的に認める制度をつくることを検討しています。具体的な方法はまだ固まっていませんが、配偶者の居住権を保護する方向で検討されているようです。

   

(2)配偶者の貢献に応じた遺産の分割等を実現するため法定相続分の見直し

   近年は、結婚の態様も様々になってきており、長年連れ添ってきた夫婦もいれば、年齢を重ねた後に再婚した夫婦もいます。また、家庭内での夫婦の協力関係も、家ごとに大きく異なります。このように、夫婦といってもその内実は千差万別です。にもかかわらず、民法上の法定相続分は、配偶者という地位だけに着目しているので、その貢献にかかわらず一律に定めています。このような制度は社会の実情に合わないのではないか、もっと夫婦の実情に合わせた制度にできないのかということで議論がされました。

   そこで提案された案としては、①離婚のときの財産分与のような形で、夫婦の共有財産を清算するという案や、②遺産の属性に応じて法定相続分の割合を変動させるといった案などが検討されました。

   いずれも一長一短ある案ですので、どのような手段となるかはこれから詰めていくことになりますが、これまで一律に決まっていた法定相続分が根本的に変更される可能性があります。

 

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