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【コラム】遺産分割の解除

2015-12-17

1、遺産分割協議の解除に関するご相談

「父の遺産分割協議について相談させて下さい。父は今年の3月に亡くなり、母も早くに他界していましたので、私と兄の二人だけが相続人になりました。父の財産は、自宅建物とその敷地、預金、株式などで3億円ほどありましたが、そのうち都心の一等地にある自宅建物とその敷地が約2億円と大部分を占めていました。都心の不動産が値上がりを続けていることもあり、兄はどうしても自宅建物とその敷地を欲しがっていました。私は、兄に自宅建物とその敷地を譲る代わりにその他の財産を相続することとし、さらに2000万円ほどの代償金を支払ってもらうことになりました。そして、その旨の遺産分割協議書を作成し、それぞれが署名・押印しました。ところが、兄は、相続税を払ってお金がないなどと言って、約束した代償金を払おうとしません。作成した遺産分割協議書はなかったことにして、改めて遺産分割協議をすることはできないのでしょうか。」

相続に関して、遺産分割協議をやり直すことができないかとご相談いただくことがあります。

今回は、遺産分割の手続きとそのやり直しについてご説明します。

 

2、遺産分割の手続きとそのやり直し

⑴遺産分割の手続き

亡くなられた方(「被相続人」といいます。)について、相続人が二人以上いる場合、遺産は相続人間の共有になり、当然に遺産を構成する各財産が当然にどの相続人に帰属するか定まるものではありません。

最終的な遺産の相続人への帰属は、遺産の分割を行うことによって決まります。

遺産の分割は、原則として相続人間の協議によって行われます。通常、相続人間の協議がまとまった場合は、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議ができないときは、家庭裁判所に対し、遺産分割調停の申立てを行うことになります。

⑵遺産分割のやり直し

売買契約などの一般の契約であれば、例えば売買契約で買主が売買代金を支払わない場合には、売主は、買主の代金支払債務の債務不履行を理由として契約を解除することができます。遺産分割についても、同様に相続人が遺産分割協議に際して定めた債務を履行しない場合に、債権者である相続人がこの遺産分割協議を解除することができるか問題になります。遺産分割には、前述のとおり、遺産分割協議と遺産分割調停の方法がありますので、それぞれの場合についてご説明します。

①遺産分割協議の債務不履行解除の可否

遺産分割協議について、最高裁判所は、相続人の一人が遺産分割協議の際に負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は債務不履行を理由として解除することができないと判断しています。なぜなら、一方的な意思表示による解除を認めると法律関係が複雑になり、法的安定性が著しく害されてしまうことになるからです。

②遺産分割協議の合意解除の可否

なお、債務不履行に基づく解除とは異なり、遺産分割協議を相続人全員の合意の下で解除することは、法的安定性を害するおそれは少ないので許されると考えられています。

③遺産分割調停の債務不履行解除の可否

遺産分割調停が成立し、その調停調書の中で定められた代償金の支払いについて、債務者である相続人が債務を履行しないときに、債権者である相続人が債務不履行に基づき解除を主張できるか問題となった裁判例があります。この裁判例は、調停は審判と同一の効果を有するため、新たな審判または調停によらなければその分割の効果を消滅させることができず、債権者である相続人は調停における合意を債務不履行に基づき解除することができないと判断しました。

 

3、最後に

これまでご説明してきましたとおり、今回ご相談いただいた遺産分割協議をやり直すことは、相談者のお兄様の同意がなければ難しいです。したがって、お兄様に対し、代償金について訴訟等を提起して請求することを材料としながら、遺産分割協議のやり直しについて交渉していくことになるかと思います。

遺産分割協議に基づく債務の履行状況についてお悩みがありましたら、相続の専門家である弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】SNSの扱いについて

2015-11-04

1 Facebook追悼アカウント-亡くなった後のことを今から考える

先日、代表的なSNSの一つであるFacebookにおいて、利用者が生前に追悼アカウントを作成することが出来るようになりました。追悼アカウントを作成すると、利用者が亡くなった後も「追悼」との表示の下、Facebookにアカウントが残されることになります。これにより、利用者が亡くなった後も、友達や家族が集い、その人の思い出をシェアする出来るサービスとなります。

このように自分が亡くなった後、残される人々に対して、自分の意志を伝える方法としては、従来から遺言が利用されてきました。

もっとも、遺言というと、ついつい遺産をどのように配分するかを決めるだけでしょ?と思いがちです。しかしながら、遺言に記載できる事項は、遺産の配分だけに限られる訳ではありません。遺産以外にも、例えば、自分の死後の葬儀の方法や献体・臓器提供の希望、ペットの世話を誰に見て欲しいものか等というものまで、さまざまな内容を、「付言事項」として記載することが出来ます。今回は、この付言事項の注意点等についてお話ししたいと思います。

 

2 付言事項って何?

付言事項には、相続人に対する法的な拘束力はありません。しかしながら、遺言者の最後の遺志を示すものであるため、相続人が尊重する可能性は一般に高いといえます。

また、付言事項には、遺産の配分を決めた理由を記載することが出来ますが、これを述べることにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる場合もあります。例えば、遺留分を侵害する遺言書を残した場合に、配分について十分な説明がなければ不利に扱われた相続人は不満に思うことがほとんどでしょうが、その理由をきちんと説明すれば納得してくれる可能性もあります。

付言事項を残すことにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる一方で、内容によってはかえって不利に扱われる相続人の不満を増す結果に終わることも考えられます。そのため、付言事項を残す際には、遺産の配分と同じように慎重に内容を精査する必要があります。

また、付言事項を記載した遺言書を作成していたとしても、自筆証書遺言(遺言内容、作成日付、氏名を遺言者が自筆し、押印した通常の遺言書のことです。)だと、相続人が発見できないこと等の理由により、結局実現できないケースも考えられます。そこで、遺言を公正証書で作成し(公正証書遺言といいます。)、さらに遺言施行者を指定しておくことで、速やかに付言事項を含め遺言書の内容を実現することができるようにしておくなどの工夫が必要です。

ここまで説明してきましたとおり、付言事項には法的拘束力はありませんが、最後の遺志を示すものとして重要です。そして、その書き方には十分な配慮が必要となります。

現在、遺言の作成をお考えの方は、弁護士が内容を確認させていただき、アドバイスすることもできますので、財産の分与以外に残されることになる方々へ言い残しておきたい事項がある場合には、是非一度弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】預貯金の相続

2015-10-28

1、預貯金のご相続

 遺産分割と聞くと、相続人の間で財産の分け方を話し合って、最後に合意書(遺産分割協議書と言います。)を作成することをイメージされる方も多いかと思います。遺産分割とは、亡くなった方(被相続人と言います。)の財産を相続人の間で分割する手続きを言い、相続人の間での話し合いで作成することも出来ますし、それではまとまらない場合には、調停や審判という裁判所を利用した手続きを利用することもできます。

相続の対象となる財産には、土地・建物等の不動産、銀行等の預貯金、宝石や着物等の動産等があります。その中でも、預貯金は、他の財産と異なる特殊な取扱いがされています。

今回は、遺産分割での預貯金の取扱いについてご紹介します。

 

2、預貯金の取扱い

(1)最高裁判所の考え方

 最高裁判所は、預貯金は、相続人間で話合いを行わなくても被相続人が亡くなった場合には当然に分割され、法律で定まった相続分に応じて相続人となる者それぞれに帰属し、それぞれが銀行に対して払戻しを求めることができるという判断を示しています。

 つまり、被相続人Aに子B・Cがいる場合、Aが亡くなると、B・Cが相続人となり、それぞれAの財産について2分の1ずつ相続分を有することになります。Aの自宅の土地・建物については、B・C間でその分割の割合について話し合うことになります。他方で、A名義の預貯金については、B・Cは、銀行に対して、ただちにそれぞれ預貯金の2分の1ずつ払戻しを求めることができることになります。

(2)実務上の取扱い

 以上で説明した最高裁判所の考え方に反するようですが、実際のところ、銀行等の金融機関は、後日になって相続人間のトラブルに巻き込まれるリスクを恐れて、相続人全員の署名押印のある遺産分割協議書等がなければ、預貯金の払戻しに応じません。

 銀行等が預貯金の払戻しに応じない場合には、相続人は、預貯金の支払いを求めるために、銀行に対して払戻しを求める訴訟を提起することが必要です。

 また、最高裁判所の考え方からすると、預貯金は、遺産分割手続きを経ずに各相続人に相続されることになりますので、遺産分割調停・審判においてもその対象にならないはずです。

 しかし、実際のところ、裁判所での遺産分割に関する話合いである遺産分割調停では、預貯金を遺産分割の対象としないという相続人からの申し出がない限り、そのまま分割対象として手続きを進められています。また、遺産分割に関する審判官の判断である遺産分割審判においても、相続人間において、預貯金を分割対象にする旨の合意があれば、その合意に従って審理・審判がなされます。

 

3、最後に

 これまでご説明してきましたとおり、預貯金の遺産分割における取扱いは少し特殊です。この特殊性に応じて、円滑で速やかなご相続を進める上で適切な手続きを選択するためには、遺産分割全体を見通した専門的な判断が必要となります。

 もし、預貯金に限らず、ご相続に関するお困りごとがありましたら、是非一度弁護士にご相談ください。ご相談いただいた方が、速やかにご相続手続きを進められるよう、弁護士が全力でサポートいたします。

以上

 

【コラム】死亡退職金の相続

2015-10-19

1 退職金とは

  退職金は、在職中の功績をたたえて退職時に勤めていた本人が受け取るのが通常です。

しかし、会社在職中に本人が亡くなってしまった場合には、本人は退職金を受け取ることができません。定年間近で本人がお亡くなりになってしまった場合と、定年直後にお亡くなりになってしまった場合で取り扱いが異なってしまうのでしょうか。

 

2 死亡退職金とは

実は、本人が会社在職中に亡くなってしまった場合でも、ご家族に退職金が遺族に支給される場合があります。これが、死亡退職金です。

また、家族や兄弟で経営している会社であれば、定年のない役員が亡くなるまで在籍し、退職金が死亡退職金となるような場合もあります。

では、どういった場合に死亡退職金が支給されるのでしょうか。

死亡退職金が遺族に対して支給されるには、まず、故人が退職金を受け取れる地位になければなりません。会社の就業規則(会社で働く際のルールを定めたもの)には、一般的に、「勤続◯◯年以上の労働者が退職又は解雇された時は、退職金を支給する」などと書いてあります。さらに、一般的な就業規則には、「退職金は、支給事由が生じた日から、○○ヶ月以内に、退職した者(死亡による退職の場合はその遺族)に対して支払う」などと記載されています。この、「死亡による退職の場合はその遺族」という記載が、死亡退職金が遺族に支給される根拠となります。

 

3 死亡退職金が相続財産となるかどうか

(1)死亡退職金を誰が受給するか決まっている場合

   就業規則などで、あらかじめ死亡退職金を誰が受給するかが決まっている場合を考えてみます。この死亡退職金は、相続財産には含まれません。あくまで指定された受取人個人の財産となるのです。したがって、決まっている受給者が原則的には全てもらうことができますし、相続放棄をしても受給できます。国家公務員の死亡退職金も、相続財産になりません。地方公務員も多くは同じ扱いです。

そうすると、相続で問題は生じないようにも思えますが、実はここに落とし穴があります。

お亡くなりになった方の相続人が複数いて、そのうちの1人に対して、1億円の死亡退職金が支払われた場合を考えてみましょう。この場合、お亡くなりになった方の自宅、預貯金などの相続財産が全体で5000万円だったとすると、5000万円の相続財産を相続人で分割すると、1億円の死亡退職金を受け取った人のみが実際には多くの財産を得てしまうこととなります。これは不公平だということで、法律では、1億円の死亡退職金を受け取った人には特別受益があるとして、5000万円の相続財産を分割する際、取り分を調整するということが行われます。

(2)死亡退職金を誰が受給するか決まっていない場合

   この場合は、退職金には、給与の後払的性格があるとして、未払賃金と同様に考え、相続財産となると考えられています。

ただし、(1)のような形で就業規則を作成している会社が一般的です。勤め先の就業規則を確認しておくことが、必要になります。

 

 

4 死亡退職金への課税

  相続財産とならない死亡退職金でも、相続税の対象となる場合がありますので注意が必要です。

  法律上、退職手当金等を遺族が受け取る場合で、被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものは、相続財産とみなされて相続税の対象となります。受け取る人が相続人であれば相続財産として、相続人でない場合は遺贈によって取得したものとみなされる扱いとなっています。

【コラム】相続法に改正の動き(後半)

2015-09-14

1 相続法制検討ワーキングチームの報告書

今年(平成27年)の2月に法務省が設置した相続法制検討ワーキングチームの報告書が公表されました。前回に引き続き、その内容をご紹介します。

 

2 報告書で検討されたテーマ

(1)寄与分制度の見直し

親の財産の維持又は増加について、特別に貢献した場合は、寄与分として相続分の上乗せを求めることができます。

高齢の親への典型的な貢献は介護です。高齢者の介護は、長期間身体的・精神的に大きな負担がかかるものです。また、子が親の介護のために、子ども自身が多額の金銭を支出しているような場合もあります。

しかしながら、介護は、常に親の財産の維持又は増加をもたらすわけではありません。それゆえ、いくら過酷な「介護」をしても、それが「寄与」であるとは認められない場合があるというのが現在の寄与分制度の問題点です。現在の実務の運用では、介護による寄与を認めないというケースは想定しにくいですが、寄与分の制度上はそういったケースもありえます。

この問題点に対して、寄与の形として、財産の維持又は増加だけでなく、介護をしたことを法律に追加するという案が検討されています。現在の寄与分のあいまいな点を、はっきりした形に修正することとなります。

 

(2)遺留分制度の見直し

遺留分制度についての基本的な内容は、弊事務所ホームページの「遺留分と遺留分減殺請求(http://souzoku.legalcommons.jp/iryubun/)」をご参照下さい。

ア 遺留分制度の問題点

この遺留分制度について、現在3つの問題点があると指摘されました。

(ア) 遺留分減殺請求では、寄与分が考慮できないこと

遺産分割にあたっては、相続人の寄与分についても協議した上で、遺産分割の額を決めますが、遺留分減殺請求事件では、寄与分は考慮できないと考えられています。したがって、例えば、夫が死亡して妻と子が相続人となり、遺言で、子に全ての財産を相続させるということになっていた場合、妻は子に対して遺留分減殺請求をすることができます。しかし、遺留分として認められるのは、法定相続分のさらに半分までです。遺産のほとんどが実質的には夫婦の共有の財産であった場合のように、妻が夫の財産形成に多大な貢献をしていたとしてもその寄与は全く考慮されないのが現行の制度です。

(イ) 相続による法律関係を柔軟かつ一度で解決できないこと

現在の法制度では、遺留分減殺請求権が行使されると、相続人は、相続財産を全員で共有することになります。例えば、土地について遺留分減殺請求がされると、その土地は相続人間で共有することになります。そうすると、その分割をするために、あらためて共有物の分割手続を行わなくてはなりません。

また、遺産分割事件は家庭裁判所の手続となるのに対し、遺留分減殺請求事件は、地方裁判所の訴訟手続となるということも、柔軟かつ一回での解決を妨げていると指摘されました。

(ウ) 事業承継の障害となっていること

親が、子のうちの一人に家業を継がせるため、株式や店舗などを相続させる旨の遺言をしたとしても、他の相続人は、遺留分減殺請求権を行使することで、これを邪魔することができます。このことが、円滑な事業承継の妨げになっているのではないかとの指摘がされました。

イ これらの問題への対応策

(ア) 遺留分減殺請求では、寄与分が考慮できないことについて

配偶者の遺留分を、現在の4分の1から、2分の1まで引き上げるという案や、遺留分の算定の基となる財産について、夫婦共有財産と被相続人固有の財産に分けて考えるべきであるという案、子が遺留分を取得できるのは、親が子を扶養するために本来出すべき額に足りていない場合にのみ、その不足分のみ認めるという案が検討されました。

現在のところ、基本的には、配偶者の遺留分を拡大し、子の遺留分を縮小する方向で検討されています。

(イ) 相続による法律関係を柔軟かつ一回的に解決できないことについて

これについては、遺留分減殺請求の行使によって自動的に共有となるのではなく、その後、その分け方を協議の上合意してはじめて減殺請求の効力が生じるとする案、兄弟姉妹以外の相続人の寄与分がある場合は、これも考慮することで一回での解決を図るという案、遺留分減殺請求事件については、遺産分割協議事件とあわせて家庭裁判所でできるようにするという案が提案されました。

今後、遺留分制度と遺産分割制度、寄与分制度などを総合的に1回で解決するための制度づくりが検討されるものと考えられます。

(ウ) 事業承継の障害となっていることについて

(ア)でも触れましたが、財産の性質によって遺留分の範囲を変えるという案で対応できるのではないかと議論されています。

相続財産・遺留分については、今後は、その実質を踏まえて法制度上も細分化されていく可能性があります。

【コラム】未受給年金の相続

2015-07-23

1 年金に対する不安

  年金制度には現在、強い疑念が寄せられています。最近では、125万件の個人情報が流出したという報道がなされましたし、2007年ころには「消えた年金」問題もありました。さらに、少子高齢化によって年金の財源確保が確保できるのかといった根本的な問題など、多くの問題点が指摘されており、将来的な見通しに不安をお持ちの方も多いかと思います。

2 支払われるはずの年金が払われていない場合

  今回の情報流出は、社会保険庁のコンピュータがウィルスに感染して発生しました。今回は情報の流出でしたが、例えば、コンピュータがクラッキングされて年金情報を改ざんされることもありえます。仮に年金受給者がこの改ざんされた年金額を受給し、亡くなったあとで改ざんが発覚し、本来は年金をもっと受給もらえていたことが判明したような場合、この未払の年金は誰に支払われるのでしょうか。

  同様の問題は、2007年の「消えた年金」問題の時にも既に発生しておりました。受給者が亡くなった後に、年金記録の訂正によって未払分の存在が判明した場合、どのように扱われるのかが問題になります。

  なお、これから説明する話は、基本的には国民年金についてのお話ですので、あらかじめご了承下さい。

3 未受給年金は相続の対象になる?

  年金も、お金を支払ってもらう権利ですから、債権であると考えれば、年金を受給できる権利自体が相続の対象になりそうです。しかし、実は未受給年金は相続の対象にはなりません。最高裁判所の判決にもなっており、相続性は否定されています。

  現実に発生しているにもかかわらず未支給となっている国民年金については、国民年金法という法律に規定があります。これによれば、「配偶者、子、父母、孫、祖父母又は兄弟姉妹であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の年金の支給を請求することができる。」と定められており(19条)、配偶者→子→父母→孫→祖父母→兄弟姉妹という順で、未支給年金の支給を請求できることになっています。

  これは、民法上の相続のルールと似ているように見えてかなり異なります。民法上の、相続では、例えば被相続人の相続財産が100万あって、配偶者と子1人が相続人だとすると、配偶者と子は50万ずつ相続することになりますが、100万円の未受給年金がある場合で、配偶者と子がいる場合には、配偶者が全額を請求できることになります。このようにルールが異なる理由としては、年金受給者の収入に頼っていた遺族の生活保障のためであると説明されています。

  このような特別ルールをあえて国民年金法は定めているため、未受給年金については、通常の相続によるのではなく、この特別ルールによるのだということになっているようです。

4 年金も相続も複雑

  このように、国民年金の未受給年金についての制度の特殊性を見てみても、年金という制度がいかに複雑なものであることがお分かりいただけたかと思います。年金には国民年金の他にも厚生年金や共済年金があり、それぞれに法律でルールが決まっています。

  一度相続が起これば、他の様々な問題とともに、年金まつわる問題も同時に発生する可能性があります。こういった年金と相続について疑問がある場合は、弁護士などの専門家に相談してみるのが良いと思います。

【コラム】ゴルフ会員権の相続

2015-05-19

ゴルフ会員権を持っていると、プレーする権利である(1)「施設利用権」と、預け金の返還を受ける権利である(2)「預託金返還請求権」を持つことになります。会員制のゴルフクラブでは、通常、預託金制をとっています。預託金制とは、入会時に、一定の金銭を預託金(名称は、「保証金」等の場合もあります。)として預けることで、ゴルフクラブの会員となり、ゴルフ施設を利用でき、一定期間経過後は預託金の返還を求めることができる制度です。つまり(1)施設利用権と(2)預託金返還請求権がいわゆるゴルフ会員権の内容です。

 

このようなゴルフ会員権も、相続の対象となるのでしょうか。

 

相続は、原則として亡くなった人の一切の権利と義務を承継するものです。当然、契約上の地位も相続します。たとえば、不動産を買った人が購入代金を払った後、不動産の引渡しを受ける前に亡くなった場合には、相続人は、不動産の引渡しを受ける権利を相続します。

同様に、ゴルフ会員権も、契約上の地位として、当然に相続人が承継するように思えます。

 

-まずは、規約の確認を!-

 しかし、ゴルフクラブの会員規約には、会員が死亡した場合には会員資格を喪失する旨の定めがあることがあります。その場合には、会員権は相続されないとするのが最高裁判所の判例です(最高裁判所昭和53年6月16日判決)。ただし、預託金の返還請求は可能です。

 

 また、最高裁判所の判例(最高裁判所平成9年3月25日判決)では、ゴルフクラブ会員規約で会員が死亡した場合の取扱いについて規定がない場合に、別途規約に会員権の譲渡についての定めがあれば、譲渡に準じた手続で相続人が会員権を承継することができるとしています。この場合、会員権の譲渡規定としてゴルフクラブの理事会等による審査・承認が必要と定められていることが多いので、規約の手続きに沿って、相続人を譲受人として理事会による審査・承認を受けることで、会員権を取得することができます。

 ただ、相続人が複数いる場合はスムーズにいくとは限りません。相続人が複数いる場合は、法律上、相続した権利は複数の相続人の共同行使となります。しかし、1つのゴルフ会員権を複数人で共同行使をすることをゴルフクラブ理事会が認める可能性は低いでしょう。したがって、まず遺産分割をして、ゴルフ会員権を相続人1人が相続することとし、その相続人を譲受人としてゴルフクラブに譲渡の審査・承認の手続を求めることが妥当といえます。

 

-ゴルフをしない場合には?-

 もっとも、相続人の誰もゴルフをしない場合、ゴルフ会員権を持っていても使い道がありません。通常、預託金の払戻しにうつることになります。

しかし、会員が死亡した場合に、相続人がゴルフ施設を使用しないからといって、すぐに預託金の返還を請求できるとは限りません。最高裁判所の判例では、このような場合、預託金の据置期間満了まで返還請求をすることができないとされています(最高裁判所平成9年12月16日判決)。

据置期間満了前に預託金の返還を受けたい場合は第三者にゴルフ会員権を売却し、預託金の返還に類する効果を得るという方法をとることになるでしょう。

また、会員規約上、死亡により会員資格を喪失するとされている場合は、死亡時から相続人による預託金の返還請求は可能であると考えられています。

 

 ゴルフクラブ会員権については、手続きについてはなじみのない方が多いと思います。ゴルフ会員権の売買は、通常は、市場を通じて行われます。そのため価値は市場次第ですし、そもそもすぐに買い手が付くかも分かりません。遺産分割により、相続人の一人がゴルフ会員権を相続したところ、思っていた程の価値がなかったということにもなり兼ねません。また、一度遺産分割をしてしまうと、それを覆すことは非常に困難になります。ゴルフ会員権をはじめ、直ちに売却することができない財産があるなど、相続が発生した場合には、遺産分割をする前に、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

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