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【コラム】遺産分割の解除

2015-12-17

1、遺産分割協議の解除に関するご相談

「父の遺産分割協議について相談させて下さい。父は今年の3月に亡くなり、母も早くに他界していましたので、私と兄の二人だけが相続人になりました。父の財産は、自宅建物とその敷地、預金、株式などで3億円ほどありましたが、そのうち都心の一等地にある自宅建物とその敷地が約2億円と大部分を占めていました。都心の不動産が値上がりを続けていることもあり、兄はどうしても自宅建物とその敷地を欲しがっていました。私は、兄に自宅建物とその敷地を譲る代わりにその他の財産を相続することとし、さらに2000万円ほどの代償金を支払ってもらうことになりました。そして、その旨の遺産分割協議書を作成し、それぞれが署名・押印しました。ところが、兄は、相続税を払ってお金がないなどと言って、約束した代償金を払おうとしません。作成した遺産分割協議書はなかったことにして、改めて遺産分割協議をすることはできないのでしょうか。」

相続に関して、遺産分割協議をやり直すことができないかとご相談いただくことがあります。

今回は、遺産分割の手続きとそのやり直しについてご説明します。

 

2、遺産分割の手続きとそのやり直し

⑴遺産分割の手続き

亡くなられた方(「被相続人」といいます。)について、相続人が二人以上いる場合、遺産は相続人間の共有になり、当然に遺産を構成する各財産が当然にどの相続人に帰属するか定まるものではありません。

最終的な遺産の相続人への帰属は、遺産の分割を行うことによって決まります。

遺産の分割は、原則として相続人間の協議によって行われます。通常、相続人間の協議がまとまった場合は、遺産分割協議書を作成します。遺産分割協議ができないときは、家庭裁判所に対し、遺産分割調停の申立てを行うことになります。

⑵遺産分割のやり直し

売買契約などの一般の契約であれば、例えば売買契約で買主が売買代金を支払わない場合には、売主は、買主の代金支払債務の債務不履行を理由として契約を解除することができます。遺産分割についても、同様に相続人が遺産分割協議に際して定めた債務を履行しない場合に、債権者である相続人がこの遺産分割協議を解除することができるか問題になります。遺産分割には、前述のとおり、遺産分割協議と遺産分割調停の方法がありますので、それぞれの場合についてご説明します。

①遺産分割協議の債務不履行解除の可否

遺産分割協議について、最高裁判所は、相続人の一人が遺産分割協議の際に負担した債務を履行しないときであっても、他の相続人は債務不履行を理由として解除することができないと判断しています。なぜなら、一方的な意思表示による解除を認めると法律関係が複雑になり、法的安定性が著しく害されてしまうことになるからです。

②遺産分割協議の合意解除の可否

なお、債務不履行に基づく解除とは異なり、遺産分割協議を相続人全員の合意の下で解除することは、法的安定性を害するおそれは少ないので許されると考えられています。

③遺産分割調停の債務不履行解除の可否

遺産分割調停が成立し、その調停調書の中で定められた代償金の支払いについて、債務者である相続人が債務を履行しないときに、債権者である相続人が債務不履行に基づき解除を主張できるか問題となった裁判例があります。この裁判例は、調停は審判と同一の効果を有するため、新たな審判または調停によらなければその分割の効果を消滅させることができず、債権者である相続人は調停における合意を債務不履行に基づき解除することができないと判断しました。

 

3、最後に

これまでご説明してきましたとおり、今回ご相談いただいた遺産分割協議をやり直すことは、相談者のお兄様の同意がなければ難しいです。したがって、お兄様に対し、代償金について訴訟等を提起して請求することを材料としながら、遺産分割協議のやり直しについて交渉していくことになるかと思います。

遺産分割協議に基づく債務の履行状況についてお悩みがありましたら、相続の専門家である弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】生命保険金の取り扱い

2015-11-26

1 生命保険金

 本人の亡くなった時に支払われる生命保険金は、本人が受け取ることはできません。生命保険金は、保険会社の商品によって、あらかじめ決めていた特定の人物に支払われることになっていたり、相続人に支払われるとなっていたり、特に何も記載がなかったりと様々な内容になっています。

 多額の生命保険が、例えば子のうちの一人に対して支払うことになっていた場合、それは相続財産になるのでしょうか。また、他の子や配偶者は、このような一人だけに支払われる生命保険金に対して、不公平であることを理由として異議を唱えることはできないのでしょうか。

 

2 生命保険金が相続財産となるかどうか

(1)生命保険金を誰が受給するか決まっている場合

  生命保険金を受給する人物が、保険の契約上あらかじめ決まっている場合は、生命保険金を受け取る権利は、受取人として指定されている者の固有の権利となると考えられています。したがって、相続財産には含まれません。その結果、遺産分割の対象にはなりませんし、遺留分算定の基礎財産にも含まれません。また、受取人が相続人かどうか関係なく受給することができることになります。

(2)生命保険人の受取人を指定していない場合

ア 受給者を「相続人」としている場合

     受給者について、単に「相続人」となっている場合は、一見、相続財産となりそうです。しかし、裁判所は、この場合でも「相続人」にあたる者を保険の受取人と指定しており、「相続人」が固有の権利を取得するとして、相続財産にはならないとしています。

              受取人である相続人の間でどのように生命保険金を分配するかは、保険契約の内容として決まっていればそれによります。決まっていなければ、判例上、民法の法定相続分の割合によることとなっています。

イ 特に何も指定されていない場合

    特に何も指定がない場合、今度こそ相続財産となるのでしょうか。しかしながら、ここでも判例は、保険約款に、被保険者の相続人に支払うという旨が記載されている場合は、やはり相続人が固有の権利を取得するとして、相続財産に含まれないとしています。

   約款にも何も記載がない場合に初めて、相続財産となることとなります。

 

3 他の相続人からの異議

 このように、相続財産にならないとすると、特定の相続人だけに生命保険金が支払われることで、著しい不公平が生ずるおそれがあります。

 このような場合には、保険金を受け取った相続人を「特別受益者」として扱うことがあります。ただし、かなり限定的であり、判例では、不公平が著しいものであると評価すべき特段の事情がある場合に限って特別受益者として扱う余地を認めています。例えば、生命保険金の額が相続財産総額とほぼ同額とかなり高額である上に、受取人が特に負担を負うこともない場合は、著しい不公平といえるでしょう。

 

4 生命保険金への課税

 相続財産とならない生命保険金についても、相続税法上は「みなし相続財産」として取り扱われ,相続税の課税対象となります(なお、被保険者である被相続人が保険料を負担していた場合に限ります。保険受取人である相続人が保険料を負担している場合は、その相続人に対する所得税の問題となります。)。ただし、相続人一人について500万円までが非課税枠となります。

具体例として、相続人となる配偶者と子2人いる場合に、「相続人」を受取人とする生命保険金1,800万円が支払われ、これが法定相続分に従って、配偶者に900万円、子にそれぞれ450万円が支払われた場合を考えてみます。この場合、上記数式に当てはめると、配偶者は250万円、子はそれぞれ75万円が課税対象となります。

 

【コラム】SNSの扱いについて

2015-11-04

1 Facebook追悼アカウント-亡くなった後のことを今から考える

先日、代表的なSNSの一つであるFacebookにおいて、利用者が生前に追悼アカウントを作成することが出来るようになりました。追悼アカウントを作成すると、利用者が亡くなった後も「追悼」との表示の下、Facebookにアカウントが残されることになります。これにより、利用者が亡くなった後も、友達や家族が集い、その人の思い出をシェアする出来るサービスとなります。

このように自分が亡くなった後、残される人々に対して、自分の意志を伝える方法としては、従来から遺言が利用されてきました。

もっとも、遺言というと、ついつい遺産をどのように配分するかを決めるだけでしょ?と思いがちです。しかしながら、遺言に記載できる事項は、遺産の配分だけに限られる訳ではありません。遺産以外にも、例えば、自分の死後の葬儀の方法や献体・臓器提供の希望、ペットの世話を誰に見て欲しいものか等というものまで、さまざまな内容を、「付言事項」として記載することが出来ます。今回は、この付言事項の注意点等についてお話ししたいと思います。

 

2 付言事項って何?

付言事項には、相続人に対する法的な拘束力はありません。しかしながら、遺言者の最後の遺志を示すものであるため、相続人が尊重する可能性は一般に高いといえます。

また、付言事項には、遺産の配分を決めた理由を記載することが出来ますが、これを述べることにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる場合もあります。例えば、遺留分を侵害する遺言書を残した場合に、配分について十分な説明がなければ不利に扱われた相続人は不満に思うことがほとんどでしょうが、その理由をきちんと説明すれば納得してくれる可能性もあります。

付言事項を残すことにより、相続人間の不要な紛争を防止することができる一方で、内容によってはかえって不利に扱われる相続人の不満を増す結果に終わることも考えられます。そのため、付言事項を残す際には、遺産の配分と同じように慎重に内容を精査する必要があります。

また、付言事項を記載した遺言書を作成していたとしても、自筆証書遺言(遺言内容、作成日付、氏名を遺言者が自筆し、押印した通常の遺言書のことです。)だと、相続人が発見できないこと等の理由により、結局実現できないケースも考えられます。そこで、遺言を公正証書で作成し(公正証書遺言といいます。)、さらに遺言施行者を指定しておくことで、速やかに付言事項を含め遺言書の内容を実現することができるようにしておくなどの工夫が必要です。

ここまで説明してきましたとおり、付言事項には法的拘束力はありませんが、最後の遺志を示すものとして重要です。そして、その書き方には十分な配慮が必要となります。

現在、遺言の作成をお考えの方は、弁護士が内容を確認させていただき、アドバイスすることもできますので、財産の分与以外に残されることになる方々へ言い残しておきたい事項がある場合には、是非一度弁護士にご相談下さい。

以上

 

【コラム】経営者の相続・事業承継

2015-10-29

同族経営の会社では、次の世代へのスムーズな事業承継に向けて、計画的に準備をしておいた方がよい事項があります。

 

1.株式について

相続に当たって株式を承継させる相手方やその割合の決定は重要です。もし、自分が保有している株式を承継させる相手方や割合を既に決めているのであれば、遺言書を作成してその旨を予め定めておくことが望ましいでしょう。もっとも、承継株式の評価額如何によっては注意が必要です。例えば、遺言によって自分の長子に保有株式の全部を承継させたところ、他の相続人の遺留分(遺言・相続業務メニュー「遺留分と遺留分減殺請求」参照)を侵害する結果になるようなケースです。この場合、せっかく、経営権の円滑な承継を企図して遺言書を作成したのに、遺留分をめぐって相続人間に紛争が発生してしまう可能性もあるわけです。

この点に関連して近時注目されているのが「経営承継円滑化法」です。この制度は、株式を後継者(推定相続人に限ります。)に承継させるに当たって、推定相続人全員の合意により、当該株式を遺留分算定の基礎財産から除外し(除外合意)、又は、遺留分算定額を予め固定する(固定合意)というものです。なお、当該合意について、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可を得る必要があります。

ところで、社歴の長い会社では、数世代の相続を経るうちに株式の保有者が拡散してしまうことがあります。株主が拡散すれば、経営に対して様々な介入を受けるリスクが発生します。相続による株式の拡散を防止する見地から、会社法は、会社が相続人等に対して承継した株式を売り渡すよう請求できる制度を設けています。このような相続を見据えた会社の定款設計も重要なポイントです。

 

2.取引先について

中小企業では、経営者の人的信頼関係に基づいて商取引が継続している場合があります。長年の取引先であるからといって安心していても、世代交代を機に取引が終了してしまうことも多々あります。こうした問題は、いきなり後継者にバトンタッチするのではなく、一定期間、新旧共同して経営に関与することにより対処するしかありませんが、法的にも留意すべき点があります。いわゆる「チェンジ・オブ・コントロール条項」です。これは、契約の一方当事者の経営陣や支配株主に変更があった場合に、反対当事者が当該契約を解除したり、変更したりすることができるという条項です。現在、効力のある契約書中にこのような条項がないかを確認し、必要に応じて、相続・遺贈による株式の承継を条項から除外するなどの措置を検討することも重要です。

 

3.金融機関について

金融機関との関係においては、融資契約における保証の問題があります。経営者個人が会社の連帯保証人になっているケースは非常に多くあります。近時公表された「経営者保証に関するガイドライン」では、金融機関に対し、事業承継に伴う後継者との保証契約の締結や前経営者との保証契約の解除について、その必要性等の検討を求めています。事業承継をきっかけに、会社の財務基盤やガバナンスを見直すことで、金融機関と保証契約について協議することも可能になるといえるでしょう。

 

このように、事業を承継する場合には様々な課題がありますが、会社の事業構造を見直す絶好の機会であるともいえます。専門家を交えてぜひ事業承継の戦略を練ってください。

 

【コラム】預貯金の相続

2015-10-28

1、預貯金のご相続

 遺産分割と聞くと、相続人の間で財産の分け方を話し合って、最後に合意書(遺産分割協議書と言います。)を作成することをイメージされる方も多いかと思います。遺産分割とは、亡くなった方(被相続人と言います。)の財産を相続人の間で分割する手続きを言い、相続人の間での話し合いで作成することも出来ますし、それではまとまらない場合には、調停や審判という裁判所を利用した手続きを利用することもできます。

相続の対象となる財産には、土地・建物等の不動産、銀行等の預貯金、宝石や着物等の動産等があります。その中でも、預貯金は、他の財産と異なる特殊な取扱いがされています。

今回は、遺産分割での預貯金の取扱いについてご紹介します。

 

2、預貯金の取扱い

(1)最高裁判所の考え方

 最高裁判所は、預貯金は、相続人間で話合いを行わなくても被相続人が亡くなった場合には当然に分割され、法律で定まった相続分に応じて相続人となる者それぞれに帰属し、それぞれが銀行に対して払戻しを求めることができるという判断を示しています。

 つまり、被相続人Aに子B・Cがいる場合、Aが亡くなると、B・Cが相続人となり、それぞれAの財産について2分の1ずつ相続分を有することになります。Aの自宅の土地・建物については、B・C間でその分割の割合について話し合うことになります。他方で、A名義の預貯金については、B・Cは、銀行に対して、ただちにそれぞれ預貯金の2分の1ずつ払戻しを求めることができることになります。

(2)実務上の取扱い

 以上で説明した最高裁判所の考え方に反するようですが、実際のところ、銀行等の金融機関は、後日になって相続人間のトラブルに巻き込まれるリスクを恐れて、相続人全員の署名押印のある遺産分割協議書等がなければ、預貯金の払戻しに応じません。

 銀行等が預貯金の払戻しに応じない場合には、相続人は、預貯金の支払いを求めるために、銀行に対して払戻しを求める訴訟を提起することが必要です。

 また、最高裁判所の考え方からすると、預貯金は、遺産分割手続きを経ずに各相続人に相続されることになりますので、遺産分割調停・審判においてもその対象にならないはずです。

 しかし、実際のところ、裁判所での遺産分割に関する話合いである遺産分割調停では、預貯金を遺産分割の対象としないという相続人からの申し出がない限り、そのまま分割対象として手続きを進められています。また、遺産分割に関する審判官の判断である遺産分割審判においても、相続人間において、預貯金を分割対象にする旨の合意があれば、その合意に従って審理・審判がなされます。

 

3、最後に

 これまでご説明してきましたとおり、預貯金の遺産分割における取扱いは少し特殊です。この特殊性に応じて、円滑で速やかなご相続を進める上で適切な手続きを選択するためには、遺産分割全体を見通した専門的な判断が必要となります。

 もし、預貯金に限らず、ご相続に関するお困りごとがありましたら、是非一度弁護士にご相談ください。ご相談いただいた方が、速やかにご相続手続きを進められるよう、弁護士が全力でサポートいたします。

以上

 

【コラム】自分が亡くなった後のペットが心配

2015-09-28

近年の日本においては、ペットを家族の一員として捉える人も増えてきました。しかし、自分が亡くなった後、可愛がっていたペットはどうなるのでしょうか。飼い主がいなくなった場合、保健所に連れて行かれて殺処分されてしまうかもしれません。それを避けるためには、ペットをどうしてほしいかについて、遺言を作成することが有用です。

遺言というと、典型的には、法定相続分とは異なる相続方法を定めるケースが想定されます。数人いる子のうち、疎遠だった者には少なく、一緒に住んでいた者には多く財産を分けたい場合。自宅マンションを一緒に暮らしてきた内縁の妻に渡したい場合。たとえば、このような希望を叶えるために、遺言は有効です。

しかし、遺言の内容はこれらに限りません。自分が亡くなった後、自分の所有した財産をどうするかについても指定ができます。

法律上、ペットは飼い主の財産となります。そこで、ペットを飼っていた場合には、自分が亡くなった後ペットをどうするのかについて、遺言で指定することが可能です。たとえば、「ペットの里親を探すボランティア団体等に引き渡す」と、ペットの行く末を遺言に定めることもできるのです。ただ、注意をしなければいけないのは、遺言で財産を受ける人は、特定の財産の遺贈を拒否することができるという点です。せっかく遺言を残しても、遺贈を受ける人がペットの受入れを拒否しては意味がありません。予め、ペットを迎え入れてくれる人の了解を得ておく必要があります。

ペットを受け入れてもらうために、負担付遺贈をすることも有益です。負担付遺贈というのは、財産をおくる代わりに何らかの負担をしてもらうという方法です。ペットを受け入れてもらう代わりに何らかの財産を残すことにすれば、受入れ側も約束違反に問われないよう、しっかりと面倒を見てくれるはずです。

遺言を作成する際には、併せて、遺言執行者を指定することができます。遺言執行者とは、遺言を作成した人が亡くなった後、その遺言の内容を執行する役割の人です。上記のように、ペットをボランティア団体等に引き渡す旨が遺言に定められていた場合、遺言執行者はその内容を実現するよう務めてくれます。

遺言執行者は、遺言で指定しなくとも、相続開始後に家庭裁判所で選任してもらうことも可能です。しかし、生前の事情を知っている人を遺言執行者に指定しておくことで、よりスムーズに故人の意思を実現することが可能になります。

一般に、遺言の執行は、諸々の書類を揃えたり、財産を受け取る側と交渉したり等、煩雑な手続きと手間がかかります。遺言執行者は未成年及び破産者以外であれば就任することができますが(民法1009条)、その負担の大きさを考えれば、弁護士などの専門家を予め遺言執行者と指定しておくことで適切な遺言の執行が期待できます。

 

【コラム】相続法に改正の動き(前半)

2015-09-01

1 相続法制検討ワーキングチームの報告書

  今年(平成27年)の2月に、法務省が設置した相続法制検討ワーキングチームの報告書が公表されました。

  このワーキングチームは、嫡出子と非嫡出子に関する、平成25年9月4日の最高裁判決で、民法900条4号が、非嫡出子の相続分を嫡出子の2分の1と定めていたことは違憲だと判示されたことを受けて、民法を改正する際に、相続法全般について見直しの声があがったことをきっかけに設置されたものです。ちなみに、嫡出子と非嫡出子とは、法律上の婚姻関係にある夫婦の子(嫡出子)と、そうでない男女の間の子(非嫡出子)のことです。

  この報告書で指摘されている事項は、これからの相続法改正に反映される可能性が高いと言えます。本稿では、その内容を大まかに紹介します。

 

2 報告書で検討されたテーマ

  今回検討されたのは、①配偶者の一方が死亡した場合に、もう一方の配偶者の居住権を保護するための措置、②世話をしていた配偶者の貢献を遺産分割に反映するための法定相続分の見直し、③寄与分制度の見直し、④遺留分制度の見直しという大きく分けて4つのテーマです。本稿では、①と②について紹介し、③と④については次のコラムでご紹介いたします。

 

(1)配偶者の一方が死亡した場合に、もう一方の配偶者の居住権を保護するための措置

   2人暮らしの夫婦で夫が亡くなった場合、夫と長い間一緒に暮らしてきた妻は、これまで一緒に住んでいた家に引き続き住みたいと思うことが多いと思います。

   しかしながら、現在の法制度では、必ずしも妻が一緒に住んでいた家に住み続けることができる制度にはなっていません。つまり、夫と一緒に住んでいた家は妻だけでなく子どもも相続することとなるので、子どもとの間でいさかいが起きて妻が住み続けることができなくなってしまう場合があるのです。この妻を守るために、一時的には居住権を認める判例はありますが、これにも限界があります。

   そこで、今回のワーキングチームにおいては、このような配偶者かつ相続人である者が、これまで住んでいた家に住み続けられることを法律的に認める制度をつくることを検討しています。具体的な方法はまだ固まっていませんが、配偶者の居住権を保護する方向で検討されているようです。

   

(2)配偶者の貢献に応じた遺産の分割等を実現するため法定相続分の見直し

   近年は、結婚の態様も様々になってきており、長年連れ添ってきた夫婦もいれば、年齢を重ねた後に再婚した夫婦もいます。また、家庭内での夫婦の協力関係も、家ごとに大きく異なります。このように、夫婦といってもその内実は千差万別です。にもかかわらず、民法上の法定相続分は、配偶者という地位だけに着目しているので、その貢献にかかわらず一律に定めています。このような制度は社会の実情に合わないのではないか、もっと夫婦の実情に合わせた制度にできないのかということで議論がされました。

   そこで提案された案としては、①離婚のときの財産分与のような形で、夫婦の共有財産を清算するという案や、②遺産の属性に応じて法定相続分の割合を変動させるといった案などが検討されました。

   いずれも一長一短ある案ですので、どのような手段となるかはこれから詰めていくことになりますが、これまで一律に決まっていた法定相続分が根本的に変更される可能性があります。

 

【コラム】ホームロイヤー契約について

2015-07-27

 

高齢化社会を迎え、一人暮らしの高齢者や、高齢者だけの世帯などが増えています。このような世帯は、いわゆる振込め詐欺や強引な訪問販売等のターゲットとして狙われることも少なくありません。しかしながら、身近に親族がいないなどの事情から、定期的に高齢者の様子を把握することができないケースがあります。

また、自分が亡くなった後、自分の意思に従って財産を処分することや、残された家族に迷惑をかけないようにすることを望む場合には、生前から十分な準備をすることが大切になります。

そのような場合に、有用なのが「ホームロイヤー契約」です。

ホームロイヤー契約は、弁護士が個人と結ぶ契約です。契約内容は、個々の依頼者に必要なものを打合せを重ねて決めていきますが、代表的なものとしては、①定期的な電話・訪問などによる生活状況等の確認(見守り)、②法律相談を中心とした生活相談、③いつか訪れる死亡時に備えての準備のお手伝いなどがあります。

 

たとえば、1ヵ月に1度程度、お電話にて変わったこと・困りごとはないか等をお話させていただき、数カ月に1度程度ご訪問させていただき様子をお伺いします。

十分な資産があるはずなのに、急にお金に困るようなことがあれば振り込め詐欺などの被害等に巻き込まれたことが発覚することがあります。ご自宅を訪問した際に、不必要なはずの物や高価な物、あるいは不審な請求書等がホームロイヤーの目に入り、強引な訪問販売等により商品を買わされたことなどが発覚することもあります。このような被害に遭った場合には、周囲から責められるのを恐れ、自分からは言い出せないこともあります。

さらに、このような事態が生じた場合には、警察に届出る、クーリングオフをする、相手方と交渉するなどの手続を採ることが考えられますが、高齢者一人では手続が困難なこともあります。

また、必ず訪れる最期の時のための準備も必要となります。子や兄弟などの相続人はいるが、法定相続分と異なる割合で相続させたい、相続人でない者(個人、団体問いません)に寄付したいなどのご希望がある場合には、生前に遺言を作成しておかなければなりません。また、相続人が全くおらず、特別親しい関係の人(特別縁故者といいます。内縁関係や事実婚などがこれに当たります)もいない場合には、遺言を遺さない限り、故人の財産は国庫に帰属してしまいます。それよりは、自分の意思に沿って誰かに遺したいと考える方が多いのではないでしょうか。このときも遺言が必要となります。遺言の方式は複数ありますし、記載すべき事項や要式にも注意が必要です。せっかく遺言を作成しても、方式や要式を誤ってしまえば法律上効力のないものとなりかねません。専門家に相談し、不備の無い遺言を作成することが大切です。

当事務所では、このようなホームロイヤー契約をお受けすることが可能です。ご相談ください。

 

 

【コラム】養子と相続の関係

2015-06-08

-養子も養親の相続人です-

親が亡くなった場合に、子は、親の財産に含まれる一切の権利義務を承継します。これを相続といいます。養子は、養子縁組をすることにより、養親との間に親子関係が生じます。したがって、養子は養親を相続します。養親に実子がいた場合には、養子と実子が同等に相続します。

 

-養子は実親を相続しますか-

では、養子縁組した者は、実親を相続するのでしょうか。

これは、その養子縁組が、特別養子縁組か、普通養子縁組かによって異なります。

 特別養子縁組とは、原則として6歳未満(一定の場合は8歳未満)の者を養子とする縁組で、成立には裁判所の審判が必要です。特別養子縁組をすると、実親との間の親子関係は終了します。

したがって、特別養子縁組をすると、養親が亡くなった場合には相続しますが、実親が亡くなっても実親を相続しません。

 これに対して、普通養子縁組は、養親より年上の者を養子とすることはできませんが、縁組をする際の年齢制限はありません。縁組の手続きも、当事者が養子縁組をする合意をして届出ることで成立します。普通養子縁組をしても実親との間の親子関係は継続しますし、さらに養親との親子関係も発生します。

したがって、普通養子縁組の場合には、養親が亡くなっても実親が亡くなっても、それぞれを相続することになります。

 

-なぜ違いがあるのですか-

特別養子縁組は、実親が子を育てられない場合などに、子に家庭のような養育環境を与えることが念頭に置かれています。そのため、上記のように幼少期のみ縁組が可能であり、実親との親子関係も終了させる仕組みが採られています。身分についての影響が大きいため、手続も家庭裁判所の審判が必要となります。

普通養子縁組は、従来の日本では、高齢の夫婦に跡継ぎとなる子がいない場合や、いわゆる「婿養子」として夫婦の子が女性の場合に、その夫と養子縁組をするなどの場合に使われる例がありました。

このような制度の違いにより、実親との関係が終了するか否かが異なります。ちなみに、相続税の計算上、課税価額から控除される基礎控除額は「3000万円+600万円×相続人数」として計算されますが、養子は何人いても最大2名までしか控除対象となりません(被相続人に実子がある場合の控除対象となる養子は1名までとなっています。)。これは,相続税軽減目的での養子縁組を防止するための制度ですが、特別養子縁組を行った養子については、実子と同様、控除対象となる人数に制限はありません。

 

-妻の姓を名乗ると養子なのですか-

ちなみに、現在の日本では、法律婚をすると、夫婦が共に夫婦のどちらかの姓を名乗ることになります。現状では、妻が夫の姓を名乗ることが多く、夫が妻の姓を名乗るケースでは、夫と妻の親とが養子縁組をする例が多いようです。しかし、もちろん、夫が妻の姓を名乗る場合に養子縁組をしなければならないわけではありません。また、夫が妻の姓を名乗っても、夫と妻の親とが養子縁組をしない限り、妻の親が亡くなった場合に、夫が妻の親を相続することもありません。

 

 養子縁組、特に普通養子縁組の場面では、相続人が増えるため、元々の相続人との間で相続をめぐる紛争が発生することがあります。養子縁組などの身分関係の制度は、分かりにくい部分も多いかと思いますので、専門家である弁護士にご相談ください。

【コラム】ゴルフ会員権の相続

2015-05-19

ゴルフ会員権を持っていると、プレーする権利である(1)「施設利用権」と、預け金の返還を受ける権利である(2)「預託金返還請求権」を持つことになります。会員制のゴルフクラブでは、通常、預託金制をとっています。預託金制とは、入会時に、一定の金銭を預託金(名称は、「保証金」等の場合もあります。)として預けることで、ゴルフクラブの会員となり、ゴルフ施設を利用でき、一定期間経過後は預託金の返還を求めることができる制度です。つまり(1)施設利用権と(2)預託金返還請求権がいわゆるゴルフ会員権の内容です。

 

このようなゴルフ会員権も、相続の対象となるのでしょうか。

 

相続は、原則として亡くなった人の一切の権利と義務を承継するものです。当然、契約上の地位も相続します。たとえば、不動産を買った人が購入代金を払った後、不動産の引渡しを受ける前に亡くなった場合には、相続人は、不動産の引渡しを受ける権利を相続します。

同様に、ゴルフ会員権も、契約上の地位として、当然に相続人が承継するように思えます。

 

-まずは、規約の確認を!-

 しかし、ゴルフクラブの会員規約には、会員が死亡した場合には会員資格を喪失する旨の定めがあることがあります。その場合には、会員権は相続されないとするのが最高裁判所の判例です(最高裁判所昭和53年6月16日判決)。ただし、預託金の返還請求は可能です。

 

 また、最高裁判所の判例(最高裁判所平成9年3月25日判決)では、ゴルフクラブ会員規約で会員が死亡した場合の取扱いについて規定がない場合に、別途規約に会員権の譲渡についての定めがあれば、譲渡に準じた手続で相続人が会員権を承継することができるとしています。この場合、会員権の譲渡規定としてゴルフクラブの理事会等による審査・承認が必要と定められていることが多いので、規約の手続きに沿って、相続人を譲受人として理事会による審査・承認を受けることで、会員権を取得することができます。

 ただ、相続人が複数いる場合はスムーズにいくとは限りません。相続人が複数いる場合は、法律上、相続した権利は複数の相続人の共同行使となります。しかし、1つのゴルフ会員権を複数人で共同行使をすることをゴルフクラブ理事会が認める可能性は低いでしょう。したがって、まず遺産分割をして、ゴルフ会員権を相続人1人が相続することとし、その相続人を譲受人としてゴルフクラブに譲渡の審査・承認の手続を求めることが妥当といえます。

 

-ゴルフをしない場合には?-

 もっとも、相続人の誰もゴルフをしない場合、ゴルフ会員権を持っていても使い道がありません。通常、預託金の払戻しにうつることになります。

しかし、会員が死亡した場合に、相続人がゴルフ施設を使用しないからといって、すぐに預託金の返還を請求できるとは限りません。最高裁判所の判例では、このような場合、預託金の据置期間満了まで返還請求をすることができないとされています(最高裁判所平成9年12月16日判決)。

据置期間満了前に預託金の返還を受けたい場合は第三者にゴルフ会員権を売却し、預託金の返還に類する効果を得るという方法をとることになるでしょう。

また、会員規約上、死亡により会員資格を喪失するとされている場合は、死亡時から相続人による預託金の返還請求は可能であると考えられています。

 

 ゴルフクラブ会員権については、手続きについてはなじみのない方が多いと思います。ゴルフ会員権の売買は、通常は、市場を通じて行われます。そのため価値は市場次第ですし、そもそもすぐに買い手が付くかも分かりません。遺産分割により、相続人の一人がゴルフ会員権を相続したところ、思っていた程の価値がなかったということにもなり兼ねません。また、一度遺産分割をしてしまうと、それを覆すことは非常に困難になります。ゴルフ会員権をはじめ、直ちに売却することができない財産があるなど、相続が発生した場合には、遺産分割をする前に、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

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