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【コラム】遺言によるトラブル防止のために。付言事項という予防線

2016-11-22

1.遺言の限界

遺言とは、自ら築いた財産を、死後、その意思に従って遺された人に分配するための制度です。ところが、遺言の内容は、必ずしもそのまま実現されるとは限りません。以下の事例を見ながら、遺言からどのようなトラブルが生じるか、検討してみましょう。

 

⑴登場人物

今回遺言を作成するのは、80代の男性A。Aには妻がいましたが、既に先立たれていますので、法定相続人は、50代の子である長男Bと、次男Cの2人のみです。

 

⑵遺言者Aの考え

Aは、自分がこれまでに働いて築いた財産を、自分の子であるBかCのうち、より自分の家計を助けてくれ、また、自分の生活を支えてくれた者に譲ろうと考えました。

経済面では、Bは高校卒業後すぐに家を出て独立して働きに出たため、Aに学費や生活費の負担もさほどかけていませんでした。一方、Cは、Aに大学の学費負担をさせた上、社会人になってからも何かとAに金銭的な援助をしてもらっていました。

また、生活面では、Bは、Aが妻に先立たれ、段々と体調も悪くなっていった時、わざわざAの近くに引っ越して一人で暮らすAの家事を手伝ってくれました。一方、Cは遠くに住んだまま、Aにあまり連絡もよこしませんでした。

このような事実を踏まえて、Aは、自分が亡くなった後、これまで金銭的な負担もかけず、家事を手伝うなどしてくれたBに残った財産を全て譲ろうと考え、その旨の公正証書遺言を作成し、自分が亡くなった後に備えたのです。その後程なくして、Aは死亡しました。

 

⑶法定相続人Cの考え

ここで、Cに視点を移してみましょう。Cは、Aが亡くなった後、遺言が残されていることを知り、その内容を見ました。そこには、「相続財産は全てBに相続させる」という言葉があるのみでした。何故自分は相続を受けられないのか、その理由について知ることができません。Aの遺言に納得できなかったCは、「BがAの自宅の近くに住み、家事を手伝うために週に数度、Aの家に出入りしていた。ひょっとしたら、Bは日頃からAに何か吹き込んでいたのかもしれない。」などと考え、Bに対して遺言の内容について不服を述べますが、Bはこれに取り合いませんでした。

ところで、民法は遺留分減殺請求という制度を設け、相続を受けられなかった法定相続人(ただし亡くなった人の兄弟、姉妹を除く)は、その法定相続分(この事例でいうと、BとCが2分の1ずつ)の半分までは、その取り戻しを請求することができます。

Cは、上述のとおり、遺言の内容に不服があったことから、この遺留分減殺請求をすることとしました(今回でいえば、相続財産全体のうち4分の1までの財産をBから取り戻すことができます)。

その後、結局、CとBの争いは、調停を経てもまとまらず、最終的に遺留分減殺請求訴訟にまで発展することとなりました。

 

2.遺言の内容から生じた訴訟

このように、Cが遺留分減殺請求をした場合、遺言を通じて残されたAの遺志は、残念ながら100パーセントは尊重されないことになります。さて、このように兄弟間での争いが訴訟にまで至ってしまったことの原因は、どこにあるのでしょうか。

ひょっとすると、その原因は遺言の内容そのものではなく、CがAから「きちんと説明を受けることが出来なかった」ことにあるのかもしれません。共に過ごした時間が長い分、家族の問題は多分に感情が入り込みます。感情の部分で納得できれば、訴訟という形で争いが顕在化することもなかったかもしれません。

 

3.付言事項って?

上記のような訴訟トラブルを避けるための方法として、遺言に「付言事項」を記載することが考えられます。今回は、この「付言事項」とは何かご説明しましょう。

まず、遺言の内容には、大きく分けて「法定遺言事項」と、「付言事項」があります。

前者の「法定遺言事項」は、遺言に記載することによって法的な効力を生じる事項を言います。例えば、相続財産の何を誰に譲るかといった内容(相続分の指定)などが挙げられます。一方、後者の「付言事項」は、「法定遺言事項」以外の事項、すなわち法的な効果を持たない内容を指します。

この「付言事項」は、法的な効力を持たない分、自由にその内容を記載することができます。最もよくされるのは、何故そのような内容の遺言となっているかの理由を記載した、遺言者の相続人へのメッセージです。遺言者が何を考え、残された家族にどう過ごして欲しいのかを記載することによって、家族への想いを残すことができるのです。

今回の事例では、Cはひょっとしたら、他ならぬAから、何故CではなくB

に財産を相続させるのかの説明を受け取れば、自分がAの財産を相続できない理由に納得し、Bに不服を述べることはなかったかもしれません。また、自分の親であるAから「BとCは、兄弟として仲良く過ごして欲しい」といったメッセージを受け取れば、兄であるBに対し、訴訟など提起することもなかったかもしれません。その意味で、法的にはともかく、付言事項には事実上の価値があると言えるでしょう。

遺言の内容のうち、付言事項は法的な意味を持つものではありません。しかし、多数の相続トラブルを目の当たりにしてきた弊所の弁護士は、このような事実上の効果も踏まえ、適切な内容の遺言を作成できるようアドバイスすることができます。さらに、弊所では映像で遺言者のメッセージを残す映像遺言サービスも行っています。大切な家族だからこそ、気持ちの部分もしっかり残したい。そのような方のご依頼を、弁護士一同お待ちしております。

 

【コラム】中小企業の事業承継と遺留分に関する民法の特例

2015-11-19

1 中小企業の円滑な事業承継は喫緊の課題である

東京商工リサーチの2014年の調査(http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20141002_01.html)によれば、現在、企業の代表者の平均年齢は60.6歳であると言われており、中小企業経営者の高齢化は深刻な状況となっています。これは、現経営者による後継者への事業の承継がスムーズに進んでいないことを示唆するものです。

戦後日本の経済・産業を支えてきた中小企業の代替わりがうまく行かないことによって、そのような中小企業が途絶えてしまうと、長年蓄積された高度な技術やノウハウが散逸するおそれがあり、国内の経済・産業全体にとって大きなマイナスになりかねません。

そこで、このような事態に陥らないよう、高齢となった多くの中小企業の経営者による円滑な事業承継を実現・推進していくことが我が国経済産業界における喫緊の課題であると考えられます。

 

2 中小企業経営承継円滑化法の成立

 平成20年5月9日、中小企業の円滑な事業承継を支援することを目的とした「中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律」(中小企業経営承継円滑化法)が成立しました。この法律では、3つの大きな柱として、①遺留分に関する民法の特例、②資金の供給等の金融支援制度、③相続税・贈与税の納税猶予の特例が定められていますが、今回は、①遺留分に関する民法の特例についてご紹介します。

 

3 遺留分に関する民法特例

  民法上の遺留分制度の詳細については、遺留分と遺留分減殺請求において詳しく説明していますのでそちらをご参照ください。

(1)制度の背景

ア 財産の分散防止

現経営者の推定相続人の一人(例えば、現経営者の長男)に事業を承継させたいという場合に、相続によって他の推定相続人に自社株式や事業用資産が分散する事態はなるべく避けなければなりません。しかし、生前贈与や遺言によって後継者(長男)に自社株式や事業用資産のすべてを集中させようとしても、他の相続人の遺留分を侵害することとなってしまう場合は、事業承継がうまくいかないことがあります。民法上は、遺留分の放棄という制度もありますが、他の相続人にとってメリットがなく、かつ、放棄する相続人自らがわざわざ相続開始前に家庭裁判所で申立てをして個別に許可を受けなければならないといった手続負担もあったことから、現実には非常に困難なもので、ほとんど利用されていませんでした。

イ 後継者と後継者以外の他の相続人との間で生じる不平等問題

また、現経営者から後継者に株式が生前贈与されていた場合、後継者の努力で株価が上がれば上がるほど、遺留分の対象となる基礎財産も相続開始時を基準に評価されるため、他の相続人の遺留分が増大する結果となってしまうという問題もありました。

(2)特例の内容

そこで、中小企業経営承継円滑化法は、このような遺留分に関する民法の特例として、経営者の推定相続人全員の合意により、経営者から推定相続人の一人である後継者に生前贈与された自社株式や事業用資産を遺留分算定の基礎財産から除外する「除外合意」と、遺留分算定の基礎財産に算入する際の価額を固定する「固定合意」を設けました。ご注意いただきたいのは、あくまでも生前贈与を念頭に置いた制度であるということです。事前に問題解決を図っておくことで、相続開始後の紛争を未然に防ぐことを目的としています。

ア 除外合意

除外合意とは、後継者が現経営者から贈与等によって取得した自社株式その他一定の財産について、現経営者の推定相続人全員の合意によって、遺留分算定の基礎財産から除外することができるという制度です。

このように、遺留分減殺の対象から外すことで、遺留分の放棄をしてもらう必要がなくなり、自社株式等が相続により分散することを防ぐことが可能になります。

イ 固定合意

固定合意とは、後継者が現経営者から贈与によって取得した自社株式について、現経営者の推定相続人全員の合意によって、遺留分算定の基礎財産に算入する価額を合意時点の価額に固定できるという制度です。

この合意によって、遺留分算定の基礎財産に算入にあたり、この株式価額は合意のした時点の価額に固定されるので、後継者は、経営努力による株式の価値上昇のせいで遺留分が増大してしまうというマイナス面を考えなくてもよくなり、経営に専念できます。

なお、この合意にあたっての株式の価額は、適正さを担保するため、弁護士などの証明が必要となっています。

 

4 終わりに

  今回は、中小企業経営承継円滑化法における遺留分に関する民法の特例についてご説明しました。事業承継は法務・税務・会計など様々な要素が関係してくる複雑かつ煩雑なものです。制度をうまく活用して円滑な承継を進めるためにも、専門家に一度ご相談いただくことをおすすめします。

 

【コラム】相続法に改正の動き(後半)

2015-09-14

1 相続法制検討ワーキングチームの報告書

今年(平成27年)の2月に法務省が設置した相続法制検討ワーキングチームの報告書が公表されました。前回に引き続き、その内容をご紹介します。

 

2 報告書で検討されたテーマ

(1)寄与分制度の見直し

親の財産の維持又は増加について、特別に貢献した場合は、寄与分として相続分の上乗せを求めることができます。

高齢の親への典型的な貢献は介護です。高齢者の介護は、長期間身体的・精神的に大きな負担がかかるものです。また、子が親の介護のために、子ども自身が多額の金銭を支出しているような場合もあります。

しかしながら、介護は、常に親の財産の維持又は増加をもたらすわけではありません。それゆえ、いくら過酷な「介護」をしても、それが「寄与」であるとは認められない場合があるというのが現在の寄与分制度の問題点です。現在の実務の運用では、介護による寄与を認めないというケースは想定しにくいですが、寄与分の制度上はそういったケースもありえます。

この問題点に対して、寄与の形として、財産の維持又は増加だけでなく、介護をしたことを法律に追加するという案が検討されています。現在の寄与分のあいまいな点を、はっきりした形に修正することとなります。

 

(2)遺留分制度の見直し

遺留分制度についての基本的な内容は、弊事務所ホームページの「遺留分と遺留分減殺請求(http://souzoku.legalcommons.jp/iryubun/)」をご参照下さい。

ア 遺留分制度の問題点

この遺留分制度について、現在3つの問題点があると指摘されました。

(ア) 遺留分減殺請求では、寄与分が考慮できないこと

遺産分割にあたっては、相続人の寄与分についても協議した上で、遺産分割の額を決めますが、遺留分減殺請求事件では、寄与分は考慮できないと考えられています。したがって、例えば、夫が死亡して妻と子が相続人となり、遺言で、子に全ての財産を相続させるということになっていた場合、妻は子に対して遺留分減殺請求をすることができます。しかし、遺留分として認められるのは、法定相続分のさらに半分までです。遺産のほとんどが実質的には夫婦の共有の財産であった場合のように、妻が夫の財産形成に多大な貢献をしていたとしてもその寄与は全く考慮されないのが現行の制度です。

(イ) 相続による法律関係を柔軟かつ一度で解決できないこと

現在の法制度では、遺留分減殺請求権が行使されると、相続人は、相続財産を全員で共有することになります。例えば、土地について遺留分減殺請求がされると、その土地は相続人間で共有することになります。そうすると、その分割をするために、あらためて共有物の分割手続を行わなくてはなりません。

また、遺産分割事件は家庭裁判所の手続となるのに対し、遺留分減殺請求事件は、地方裁判所の訴訟手続となるということも、柔軟かつ一回での解決を妨げていると指摘されました。

(ウ) 事業承継の障害となっていること

親が、子のうちの一人に家業を継がせるため、株式や店舗などを相続させる旨の遺言をしたとしても、他の相続人は、遺留分減殺請求権を行使することで、これを邪魔することができます。このことが、円滑な事業承継の妨げになっているのではないかとの指摘がされました。

イ これらの問題への対応策

(ア) 遺留分減殺請求では、寄与分が考慮できないことについて

配偶者の遺留分を、現在の4分の1から、2分の1まで引き上げるという案や、遺留分の算定の基となる財産について、夫婦共有財産と被相続人固有の財産に分けて考えるべきであるという案、子が遺留分を取得できるのは、親が子を扶養するために本来出すべき額に足りていない場合にのみ、その不足分のみ認めるという案が検討されました。

現在のところ、基本的には、配偶者の遺留分を拡大し、子の遺留分を縮小する方向で検討されています。

(イ) 相続による法律関係を柔軟かつ一回的に解決できないことについて

これについては、遺留分減殺請求の行使によって自動的に共有となるのではなく、その後、その分け方を協議の上合意してはじめて減殺請求の効力が生じるとする案、兄弟姉妹以外の相続人の寄与分がある場合は、これも考慮することで一回での解決を図るという案、遺留分減殺請求事件については、遺産分割協議事件とあわせて家庭裁判所でできるようにするという案が提案されました。

今後、遺留分制度と遺産分割制度、寄与分制度などを総合的に1回で解決するための制度づくりが検討されるものと考えられます。

(ウ) 事業承継の障害となっていることについて

(ア)でも触れましたが、財産の性質によって遺留分の範囲を変えるという案で対応できるのではないかと議論されています。

相続財産・遺留分については、今後は、その実質を踏まえて法制度上も細分化されていく可能性があります。

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